夜勤は嫌だ、無理
ようすけ
第1話
人形が動くのには慣れていた。わたしは弱虫ではあるのだが、幽霊とかよりも生きている人間の方がとても怖かった。例えば脳の疾患で入院している立花という男は、脳がもう駄目なのに夜になると歩き回ってドキッとさせるのだ。
わたしはそのことを医師に報告するのだったが、プライドの高い医師たちは「そんなことを言うのならクビにするぞ」とわたしを脅した。それでも監視カメラの映像を証拠に「どっちが正しいのかこれで判断してください」と彼らに提案をするのだった。
監視カメラの映像を見た医師たちは唸り声をあげた。
結果としてわたしは解雇されることはなくなったのだが、基本的な人権のようなものが確保されていないと感じて医院を退社することにした。本当はもう夜勤で働くのが嫌だったのだが、辞める時に医師たちの性格について行けないなどと告白をする素振りで訴えたら気分がすっとした。
わたしは派遣社員だった。
派遣先の榎本という男に次の職場も医院関連が希望だということを伝えた。
「え、どうして?」と榎本は不思議そうな面持ちで聞いてきた。
「あの病院が合わなかっただけで、基本的にぼくは医院が好きなんです」
「でもああいった界隈は噂話が先行するから君のような辞め方をしてしまうと次がないんだよ」
「ぼくはじゃあどこに行っても働けないんですか?」
「同じ場所で働けばいいじゃないか」と榎本という男が笑った。
「分かりました」と答える。
本当は全く分かってなどいなかった。
以前と同じ職場で働くのなら死んだほうがマシだった。
そんな時に、わたしは道を歩いている。すると道の真ん中でスーツ姿の死神と出会った。死神とはもう何ヶ月も前から顔見知りだ。普段は礼儀正しい様相で人間たちに接するのだったが、いざ命をもらおうとする時は本当の顔が顕になるから変わった人物に思っていた。
わたしが以前の医院を辞めたことを報告すると、「知っているよ」という答えが返ってきた。
「医師たちから聞いたんですか?」
「お前自身から聞いたんだ」
「は、どういうことですか?」
そこで今度は、わたしはわたし自身に対して「は」という言葉を反芻しなければいけなくなった。確かにわたしは同じ場所で働くのなら死んだほうがマシだと独白したのだったが、それとこれとは別だった。
「あの言葉は有効なのですか?」と聞いてみる。
「あの言葉は有効だよ」
「ぼくは死ぬんですか?」
「死にたくないのなら死ななくてもいい方法がある」
「またあの病院で働くのですか?」
「いや、その言霊は生きていて、君があの病院で働く手続きをした途端におれは君の命をもらう為に右手の鎌を振り下ろすつもりだよ」
「それじゃあ、霊界探偵とか何かをすれば許してもらえるんですか?」
死神の顔がパッと輝いた。「それだよ、君」
「霊界探偵をするくらいなら死んだ方がマシだよ」
「また言霊が増えたようだよ」
実際の話を言えば、霊界探偵をするくらいなら死んだ方がマシだった。
夜勤は嫌だ、無理 ようすけ @taiyou0209
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