第50話 ローザ・ノクティスのボス、カエリ・ユエナ(終)


私がローザ・ノクティスのボスになって一ヶ月。

フィロ・ルーナは予想通り分裂し、お互いを攻撃し合い……そこをウチや他の組織に突かれ、大幅に弱体化。

ジニーと結婚してるのもあって、構成員の殆どはウチに入った。

今やローザ・ノクティスは大組織と言っても過言じゃない位置にいる。



「……ん? 何休んでんの?」


「んぁっ、も、申し訳ございません……」



首輪のリードを引くと、クラリスは甘ったるい喘ぎ声を漏らしながら脚舐めを再会した。

別にそれで悦に浸る趣味は無いけど……クラリスの反抗心を折るには何かしら人の矜持を捨てさせる行為をさせないといけない。

最初は反発もしたけど、その度に折檻していったら素直になった。

まぁ、今でも瞳の奥に怒りの炎を灯している。

それを隠せてないから駄目なんだけど。

また後で何かしらの理由を付けて躾をしないと。



「……はぁ」



どうしてこんな事になったんだろう。

最初はバイト三昧のフリーターで、金欲しさにクラリスを狙って、負けて、奴隷にされて。

クラリスの気紛れで殺しをさせられて、猟犬の素質を見込まれて始末屋になった。

それからミナの為に全力で潜入して、騙して、殺して……今やマフィア組織のトップだ。


奴隷からボスに……こんな立場になってしまったら、大手を振ってミナには会えない。

世話人と契約し、その人を通じてお金を送っている。

……まぁ、この都市に住んでいる以上、いつか私の事もバレるんだろうけど。



「ねぇ、カエリ。私今日はクラムチャウダーを食べたいわ」


「良いね。美味しいクラムチャウダーを出す店を知ってるんだ。今晩はそこで食べようか」


「嬉しい!」



ジニーは満面の笑顔で私の腕に抱き付いてくる。

ローザ・ノクティスは弱体化したフィロ・ルーナを飲み込んで吸収。

その最大の功労者はハリメア・ベーレン。

フィロ・ルーナの幹部で、ジニーの命令という大義名分を得てレオナを討伐。

一応今のローザ・ノクティスは私がトップでジニーがNo.2という事になってるけど、ジニーは何も出来ない。

なのでハリメアは実質的にこの組織のNo.2という訳。

シエル達も変に軋轢を生みたくないのかハリメアを立ててるし、ハリメアも利口なので彼女達を無碍に扱わない。

今の所は比較的上手く行っている、と思う。



「カエリ様、アランバルドがこちらの縄張りで無断で商売を始めたそうです」



コンコン、とノックが響いて。

数少ない休憩時間が終わりを告げた。



「あぁ、わかった。今行く。ジニー、私が戻るまでクラリスと遊んであげて。

クラリスはちゃんとにジニーの言う事聞くように」


「はーい」


「……承知致しました」



次から次へと起きるトラブル。

フィロ・ルーナに勝ったことで傘下入りした連中との折衝。

謝罪を受け取らなかった組織との抗争。

媚びてくる組織や政治家の相手。


クラリスみたいな楽観主義なら浴びる程のワインを飲みながら笑って過ごせたのかもしれない。

けれど合理的な判断を求められる私からすると、頭痛の種が無限に増えていく。



「……疲れるなぁ」


「? 今なにか……?」


「いや、なんでもないよ。さ、行こう」



そうして私は椅子に座ってふんぞり返りながら冷血漢の仮面を被る。

生きる為、ミナの為に。

恨んでいた筈の、この都市に巣食うマフィアの……そして裏社会の歯車の一員として今日も人を泥に沈める命令を下す。



fin


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