変声期の悪魔

一筆書き推敲無し太郎

第1話

おまえって声低いよな。


あれは小4の頃。僕が最初に学年で変声期が訪れた。早くないかな?

朝起きて一番のおはようが嫌になった。なんか声が僕じゃないのに、僕の喉から発声している。

喉が震えているってことは僕の声なんだろう。喉仏が男性らしくなっていくらしい。

僕だけなのが嫌だった。だって学年だと小5にならないと多数派じゃなかったから。

1年は苦痛だった。僕以外は。僕以外は変声期を格好いいだろうと宣伝してた。

おまえって声低いよなって言ったあいつも。人と違うってだけでこんなに苦痛を感じているの僕だけみたいで、それも嫌。だって声が変わるってなんでなんだ。

お父さんに聞くと男として必要だとかしか教えてくれない。お母さんに聞くと少し待ってればみんなそうなるのよ、って。1年もかかったじゃないか。


1件以来、僕は声を出すことを嫌がるようになった。それまで活発だったのに、急に友達と距離を置いた。みんなは変声期になってないからわかんないよね。

だって変声期になった人たちは自分の声でどれだけ高い声がまだ出せるのかって競ってる。

まだ高い声が出せるのかって、まだってなんだよ。出なくなるの、怖くない?

出欠確認も小さな声だし、お喋りもしなくなったし、僕の人生に突然訪れた悪魔。

喉にできた悪魔。僕は許さなかった。悪魔の使い道を減らせば抵抗できるって思った。

でもね、現実はそうじゃない。誰にでも発達段階に起こる二次性徴。

得したことはないけれど、知識を得ることができた。

それは、先進国では第二次性徴が早巻きになっていること。

これは悪魔のことがなかったら、知らなかったんだと思う。

しかもそれは各国で同様の研究結果があるにもかかわらず、原因がわからないって。

なんかかっこいいじゃん。それは。僕それの一等賞だってことでしょ。

それだけ。それだけはいいことだった。悪魔の勢力はどんどん増していって、学校全体を覆い隠すのに2年もかからなかった。悪魔強い。このころには多数派として僕は悪魔のことを認められるようになって、友達ともまた遊ぶようになった。僕の2年返せ!悪魔。

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