第3話 義眼解放・因果応報
「うおおおおおおっ!」
浩二の憎悪に満ちた叫びと共に
巨大なゴーレムがその太い腕を振り上げた。
屋敷の天井を突き破り
轟音と共に振り下ろされる一撃。
「
その場から飛び退いていた。
ゴーレムの拳が叩きつけられた床は、粉々に砕け散る。
「兄さんばっかり、親父に可愛がられて! この店は、僕のものになるはずだったんだ!」
浩二は、怨嗟の言葉を吐き出しながら、ゴーレムを操り続ける。
「へっ、くだらねえ。才能もねえくせに、他人を妬むことしかできねえ野郎の、典型的な言い分だな」
波金は、挑発するように言い放つ。
「何だと!?」
「兄貴が親父に評価されてたのは、当たり前だろ。お前さんみてえな、後ろ暗い根性した奴に、誰が大事な店を任せるかよ」
図星を突かれ、逆上した浩二は
さらに呪力をゴーレムに注ぎ込む。
ゴーレムの体が、赤黒い不吉な光を放ち始めた。
「もういい……お前ら全員、この屋敷ごと圧し潰してやる!」
ゴーレムが、その巨大な口を開き
圧縮された泥の塊――呪詛の砲弾を放とうとする!
「やれやれ、これ以上屋敷を壊されたら、報酬が減っちまう」
波金は、面倒くさそうに呟くと
ついに左目の義眼に手をかけた。
「―――義眼解放」
彼がそう唱えると、左目に埋め込まれた水晶が
これまでにないほどの眩い光を放ち始める。
蓄えられていた膨大な霊力が、彼の全身に漲っていく。
「鈴々、合わせろ!」
「はい、主様!」
肩の上で、鈴々の体もまた光に包まれ
一瞬で本来の姿――二本の尾を持つ、美しい黒猫の妖怪へと変化した。
「喰らいやがれ! 『
波金が印を結ぶと、鈴々の体が無数の影となって分裂し
一斉にゴーレムへと襲いかかった!
影の猫たちが、ゴーレムの巨体にまとわりつき、その動きを封じ込める。
「な、何だこれは!?」
浩二が狼狽した、その一瞬の隙。
波金は、解放した義眼の力を
右手の短刀へと集束させていた。
白銀の光を帯びた刃が、一条の閃光となって
ゴーレムの胸元――術者である浩二と霊的につながる
「―――終わりだ」
轟音と共に、ゴーレムは内側から浄化の光に包まれ
ただの泥の塊となって崩れ落ちていった。
霊力の逆流を受けた浩二は
白目を剥いてその場に倒れ、気を失う。
事件は、解決した。
後日、正気を取り戻した正太郎は
弟の罪を不問とし、仏門に入れることで償わせる道を選んだという。
波金の庵には、近江屋から約束以上の報酬が届けられていた。
「主様、これだけあれば、一年は遊んで暮らせますね!」
小判の山の上で、嬉しそうに飛び跳ねる鈴々。
「けっ、金の勘定なんざ、お前さんに任せる」
波金は、報酬には目もくれず
いつものように万年床に寝転がり
懐から一枚の木札を取り出した。
そこには、ただ一言、『
(あの奥方も、今頃、修行に励んでる頃かねえ……)
龍神の妻と、その傍らに立つ、朴念仁の龍。
その心配性な朴念仁の龍から預かった木札。
『美桜に何かあれば、その木札が反応する。その時は、頼む』
そして、彼らがこれから立ち向かうであろう、本当の戦い。
それに比べれば、今回のような事件など
ただの退屈しのぎに過ぎない。
「ま、たまには、こういうのも悪くねえか」
はぐれ陰陽師は、誰に聞かせるともなくそう呟くと
面倒くさそうに一つ、大きなあくびをしたのだった。
(外伝 完)
【外伝】はぐれ陰陽師・波金 ~絡繰り屋敷と泥人形の怪~ じーさん @OjiisanZ
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