10.『VS魔族』

「くそっ、やっぱり燃えてやがる!」


ロードの前には、激しい炎の中で崩れ行く我が家の姿。

木造建築である以上、炎の脅威からは逃れられない。

真っ赤に燃える忌々しい炎に対する怒りを抑えて、ロードは振り向く。


「...っよし、切り替えろ!村の中央だっけ、行くぞ!」


頬を叩き思考の切り替え。先程のクロノスを見て、ロードも焚き付けられた感情があった。


「...クソ...どこだぁ...!」

「ん?なんだ!?おっさん!!!」


不機嫌そうな顔で村を歩く大男。鼻と口から煙を出しており、ただの人間ではないことが一目で分かる。


「...お前か!?これやったの!」


ロードは背中に付けていた剣に手を伸ばし、この村の炎の原因を彼であると推測。

戦闘態勢に入るが、大男は黙ってどこかへ行ってしまう。


「おい!聞けよ!」

「んぁあぁん???」

「っ!!」


不機嫌なんて、生易しい言葉では表現しきれない。鬼の形相となり、声をかけてきたロードを睨みつけると、ゆっくりと口を開けて放つ。


「...おい、黒髪の...クソガキ...どこだ?」

「...ぇ?」

「あの野郎を!!ぶっ殺さねぇと気がすまねぇ!!」


荒々しい口調で叫び出す大男を前に、ロードは、剣を固く握り締める。


"この男を殺せ"と、本能が叫ぶ。


------


「...久しぶり?貴様の様な奴とは会ったことがないな。」

「あ〜、そうか。まぁ気にすんな。こっちの話。」


クロノスにとって、この世界は放棄した世界。必要最低限のやり取りしかしたくない為、魔族の疑問を晴らさせてあげる義理も理由も無い。


「...」


目の前で、血を流しながら倒れているアルアを見ても、あまり動揺していないのは、正直自分でもビックリしているし、村が燃えて最初に駆けつけたのが、我が家ではなく、しっかりと決めた目的地ということも、どこか人間性が欠如してしまっているのかもしれない。


だが、それでもいい。


--俺は、もう"人間"じゃなくていい。


この、神のような、世界を操る力を持ってして、誰か彼を人間扱いするだろうか。

時を遡り運命を捻じ曲げる力、タイムリープ。

これは現在する魔法の頂点に君臨すると言っても過言では無い。と、クロノスは心の底から思っている。


「--っ!」


クロノスはその時、魔力の兆しを見た。

魔族から唐突に放たれた異様な力を。1度目の世界の記憶が全力でクロノスに呼びかける。

「腹に来る」と、脳が司令を出す。

咄嗟に、横に体をずらした時だった。


--ズゴオオオンン!!


「...っ、マジか...!」


クロノスは振り返り唾を飲む。

クロノスの背後にあった燃えている建物に一直線に亀裂が入り、建物を崩壊させた。

見えない斬撃がクロノスの腹目掛けて飛んできたのだ。それを瞬時に察知し、全身を研ぎ澄ますことでクロノスの体は真っ二つになることを回避すことに成功する。もし、同じ位置に立っていたらクロノスは今立っていないだろう。


「...ほぉ、これは驚いた。ただの人間では無いな?避けたな?俺の斬撃を。」

「やっぱ、斬撃か。どういうカラクリかは分からんが...避けれるという事実は、収穫だな。」


そう、この世界では出来るだけ多くの情報を集める事が先決なのだ。正直、後何回世界を繰り返すのかは分からないが、時を遡れる以上、この襲撃は回数を重ねれば重ねるほどクロノスに有利となる。戦いにおいて、"情報"は勝利に最も近いピースだ。


「斬撃のタイミングには、魔力の兆しがある。それを感じりゃ避けれる。ノーモーションからの斬撃とか、初見じゃ厳しすぎるけどな。」

「...だが、貴様は避けたな?」

「そりゃあ、見た事あるからね。」

「...見たことが...?貴様、一体何者だ?」


眉間に皺を寄せ、明らかに不機嫌になる魔族は、クロノスを睨みつけながら問う。


--....名乗った所で、どうせ終わる世界だしなぁ。


「....うるせぇばーか。」

「...は?」


魔族の眼光が轟く。怒りよりも先に意味不明という感情が出てくる。しかし、数秒足らずで感情は真っ赤に燃えていき、クロノスを鬼の形相で睨みつけた。


「教えるだけ無駄だろ。」

「...そうだな、さっさと死ね。」


--ザン!


魔族による強力な斬撃が再び飛んでくる。

しかし、魔力の兆しを読み取り、再びクロノスは攻撃を避ける。


「--っぶねぇ!!!」

「ッチ!なんなんだ!」


クロノスが斬撃を避ける事に苛立ちを覚え始め、魔族は野蛮な本性をあらわにし出す。

同時に、攻撃の回数と速度が上がっていく。


--ザン!ザン!ザン!


「っぎぃ!っとぅあ!っふん!!!」


脅威の3連コンボを見事に全て避けたクロノス。この魔族や魔獣が生きる世界において、ただの一般人であるクロノスも戦える術ではなく、逃げる術を持つ事が大切だと叩き込まれていた為、ある程度の魔力の認識と動体視力にはたけていた。


勿論、魔族の怒りはボルテージを上げていく。


「........貴様...どこまで俺をコケにする。」

「はぁ!?こっちは命からがら逃げてんだよ!」

「何故!!!俺の攻撃を避けれる!?」


魔族の感情が爆発したように見えた。


「...何故って、お前の攻撃、割と避けやすいけどな...?」


クロノスはキョトンとした顔で述べた。

実際、本当のことだった。彼の見えない斬撃攻撃は初見では対処ほぼ不可能。何故なら、魔力の兆しから放たれるまでに1秒もない上に、兆しを読み取れたとしても、何かの魔法が来るのかと身構えてしまうものだ。


魔法は、即効性のある攻撃は初見殺しで、強者でも防御や避けることに意識を置いていかねば自分より下の者に負ける事例も少なくない。


クロノスは一度、魔族の攻撃を見ているし、受けてもいる。

兆しが見えた瞬間に動き出せば避けれないモノではないのだ。


「この女よりも、お前は遥かに格下のはずだ。魔力も並の人間程度。なのに、何故...」

「...アルアは初見だったからな。最初の攻撃さえ避けちまえばアルアだって戦える。」

「...お前は、何故俺の魔法がわかった?」

「見たから。」


紛れも無い事実。それ以上でも以下でもない。


魔族はため息をついて、長い長髪をかきはじめた。


--"情報"としては、まぁ十分だったな。後は、襲撃のタイミングと具体的方法、それにもう1個ぐらい特大の魔法持ってそうだな、コイツ。


「...おい、まだ何か隠してんだろ?全部出せよ。」


--とりあえずコレでコイツのMAXを引き出してやる。全部あぶり出して次に繋げてやる。また、即死系の魔法が飛んでくるかもしれねぇし、タイムリープの準備を...


「...あぁ、そのつもりだ。」


--やっぱり!まだあんのか!?


両者、身構える。

魔族は特大魔法を、クロノスはタイムリープの準備を。

死んでしまったらタイムリープは出来ない。

例え身体が真っ二つになってもタイムリープだけは発動出来るように準備をしておく。


「...."ガルザーク"」


魔族がその単語を放った途端、周囲の家が一斉に崩壊し始めた。

魔族は指を2本立てて指に魔力を込めている。


「...っ!なんだ!?」


家が切られる。土が切られる。そして--


「--っ!」


クロノスの左腕が切られる。


「ぐああああぁぁあああ!!!!!」

「ようやく人間らしい悲鳴をあげたな。」


魔族がニヤリと微笑む。クロノスの腕は突然やって来た斬撃の餌食となり無惨にも空中を舞う。


--ザンザン!!!


「っ!腕が!?」


クロノスの飛ばされた腕は空中で更に二等分されグロテスクな断面が見える。真っ赤な血液と筋肉の真ん中に白い骨が備えられており、その断面が鮮明に見えてしまう。


--なるほど!!!これは!!!


「無差別の斬撃攻撃だ。貴様はどうやら俺の攻撃を避けれるようだからな。俺にも分からない斬撃の軌道、貴様でもこれは避けれぬか。」


切られた腕から流れ出る血は斬撃と共にそこら中へと巻き散らかされ、クロノスの血液が散らばる。


大気が動き続けているのが分かり、斬撃が無差別に繰り広げられ続けている事が肌で分かる。


--だが、この斬撃...


「1個だな!?」


そう、繰り広げられているのは、1つの斬撃。ソレが永遠に超速で動き回り続けており、世界を切り刻んでいる。


--完っ全に理解した。コイツの魔法!通常の斬撃攻撃と無差別の斬撃攻撃。前者は魔力の兆しにさえ気を配ってりゃ回避可能。後者は厄介だが、複数の斬撃が飛んでくるわけじゃない。1つの斬撃を受け流す力さえあれば勝てる。


クロノスには無理でも、グリム村長やクラウンであれば勝機はある。

それに、初見の斬撃の避け方さえ伝えればほぼほぼ勝ちが確定する。


全てのピースは揃い、いよいよ決戦の火蓋を切る準備をする。

クロノスは残った右手を顎に当てながらニヤリと微笑む。


「...あとは...どうやってあの3人を村まで持ってくか....」

「...おい」

「ん?」


魔族は指2本で結んでいた掌印らしきものを止めて、クロノスに声をかける。

斬撃が止んだ事を何となく察知し、タイムリープの準備をしていた腹の奥を少し緩める。


「貴様...何を笑ってる?」

「へ?笑ってた?」


その時、クロノスは自分の頬がつり上がっているのを初めて知った。

見えなかった明るい未来への羨望が現実味を出てきた事に無意識に笑顔になっていたのだ。


「ま、気にすんな。そんで、お前にもう1個聞きたいこと--」

「--貴様は!!!何者だ!?」


クロノスの言葉を遮って、魔族は激昂し出した。歯をきしませ、マグマのような色をした顔を見て、クロノスも少々戸惑う。


「左腕は無い...貴様の故郷もこの有様...目の前で死んでいるこの女を見ても、全く動揺しない。貴様...本当に人間か?」

「....え?」


魔族は、まるでクロノスが"人間"には見えない、とでも言いたげな表現をしだした。


腕が無い...確かに痛いが、我慢すればいいだけだ。

故郷...別に燃えていても、全部無かった事にするのだから、悲しむ感情は特に無い。

アルア...彼女も、全部元通りになる。


どうにかなる。


だからこそ、


「...お前の尺度で、俺を語んなよ。」


それに尽きる。タイムリープという最強の魔法がある以上、それを持たぬ者とのあらゆる物の価値観は共感出来なくなる。


怪我をしても、家が無くなっても、人が死んでも、どうにかなってしまう。それがクロノスの魔法だから。


「...舐めた口を...!」

「舐めるだろ、そんな雑魚魔法でよくここまでやりやがったなぁ。てめぇら魔族は完膚無きまでに鏖にしてやるよ。」

「...!」


クロノスのイカれた目と発言に魔族は後ろへ一歩引き下がる。

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クロノスの抗い アラマ @no_18

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