第49話 KEBIISHI
「弾正さん、一つ聞きたいことがあるんですけど」
秋津が落ち着き、今日は麦茶のほかに、シュークリームもあった。冷蔵庫で冷やしておいたらしく冷たい。弾正は、市長から今回の件の貢献してくれたことに対しての差し入れだそうだ。
「何です?」
「俺のあれです」
弾正も長木も、そして秋津も眉を顰める。
「あの、あれと言われてもね」
「いや、何か俺の頭の上に輪っかみたいのができたり、霊獣が金色に鳴ったり、俺も金色になったりのあれです」
「僕も気になってましてね、調べている途中ですけど、そんな見解でもいいですか?」
「ええ」
「卜部さんにも話をして、僕との共通理解なんですけど。想念の形状化ではないかと」
「ソウネンノケイジョウカ?」
「ええ、人間誰しも想念、想いを持っています。それは人間の頭や心が思い浮かべるものですが、こうも言い換えられます。想いが物質を作り上げると。空を飛びたいと思ったから飛行機ができた。速く楽に移動したいから自動車ができた。遠方でもすぐに連絡が取りたいから電話ができた。もちろんそれを可能にした基盤として科学というものを考慮しなくてはなりませんし、それが形成されるまでの期間というものがあります。が、やはり想念無きものは誕生しない。
秋津さんもそうです。憎しみ、怒りそうした想念が呪術を介して、一つ目入道の肉体を変化させもしたんです。
人間の想念は一つじゃない、多種多様な想念が絡み合っている。門野君の場合は霊獣とのリンクがつくられ、物質界と非物質界との境界線があやふやなのかもしれません。門野君の高ぶった想念がそのあやふやな境界線を突破してあの場で必要だった。肉体の強化、攻撃力、防御力のアップという形状をとった。でもやはり想いが形になるには時間を必要とする。それを瞬間的にやってしまったから、それを発動させた身体に過度な負担がかかった。
それと門野君の頭の上に浮かんだ陣。見たことあるような図象なんですけどね。思い出せなくて。あれだけ珍しい図なら忘れるはずないんですけど」
「ふ~ん。そうなのか?」
弾正の裏付けのために霊獣を呼び出す。
「そんなことで私を呼び出すな」
「だって、そういうことならその物質界と非物質界を行ったり来たりしているようなヤツに聞くのが一番だろ。いや、お前に先に聞いとけばよかったのか」
「まあ、そんなところじゃないのか。私にもよく分からん。この身が金色になるなんてことはなかったからな。お前といてこうなって私自身も驚いているんだ」
「改めてみると、すごくきれいな《異人》ですね」
ほめたたえる秋津に、
「秋津とやら、《異人》もお前が思っているほど良い存在ばかりではないのだぞ。分かっているとは思うがな」
と注意勧告をし、身を消した。
「はい」
秋津は一つ頷いた。
「というわけで、あれは使ってはいけませんよ、門野君」
「了解」
「でも、名前の一つもつけましょうか」
「名前?」
「そうです。必殺技みたいに」
「何かあるですか?」
「《想念の網》と書いてイデアと読むのはいかがでしょうか?」
「イデアねえ」
「いいじゃない。呼びやすそうで」
男子たちの特撮的なヒーローごっこを姉のまなざしで長木は見ていた。
「ま、いっか」
「おっとそれと、名付けついでにこのチームも名前を付けましょう」
特別任命チームはいまだ名前がなかった。ここに来てメンバーも増えた。
「そう言えば風紀委員外郭組織でしたもんね」
「何か案はありますか?」
そうは言われても、突然出てくるものではないのだが、
「あ」
門野が閃いたようだった。
「検非違使」
「ケビイシ?」
「一学期日本史でやったろ、平安時代の京の治安を守る役職だか」
「ありましたね」
「日本史苦手だからな」
秋津は覚えているが、長木はすっかり忘れてしまったようだった。
「検非違使ですか、響きいいですね」
「でも漢字ってのがさ、今めかしくないよな」
「いっそのことアルファベットにしたら?」
長木が自身の欠点を補う提案をする。弾正がホワイトボードに書く。
《KEBIISHI》
「こんなですかね」
「どことなくカッコよくね?」
「いいんじゃない?」
「ええ」
門野、長木、秋津が同意を順に示した。
「これはなかなかですよ。市長に言って他の高校の部隊もこの名称にしないか提案してみます」
「そこまでノリノリでなくても」
弾正の携帯が鳴る。
「はい、分かりました」
電話を切った。
「《異人》が憑依した若者が暴れているそうです」
「早速お仕事ですか」
「愚痴らない」
「へいへい」
実動部隊の門野と長木が起立。情報収集の秋津は支給されたタブレットを抱えて、頭上には、葉っぱがいつの間にか来ていた。聞けば、KEBIISHIたちに協力せよとのご命令を白蛇から賜ったそうだ。
「そんなことまでしてんのかよ。段取りってか…池の主もよく許したな」
初出陣のメンバーを門野は、間の抜けた視線で見ている。
「行くわよ。では委員長、号令を」
長木が門野の頭をコツンとやり、職務へ気を戻させる。
ゴホン
弾正がもってつけたような咳払いを一つした。
「KEBIISHIメンバー、出陣してください」
らしくもなく声が弾んでいた。
「了解」
委員会室を出て行く背中は勇壮であった。
褻比夷市のKEBIISHI 金子よしふみ @fmy-knk_03_21
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