第48話 裁定
風紀委員会室。弾正が委員長席に、門野・長木が彼に対面で着席していた。門野も長木も翌日には退院でき、今日はそれから数日が過ぎていた。門野は身体の重さがまだ抜けないと言っていた。
コンコン。
ドアをノックする音に、弾正が入室を促す。一礼をして入って来たのは、秋津だった。彼女も翌日には退院をし、本人の希望もあってその日から事情聴取が始まっていた。今日は処罰が言い渡される日だった。だから、門野も長木も授業中、秋津のことが気になって落ち着かなかったのだが、秋津をちらちら見ても彼女の方が落ち着いているように見えた。
「どうぞ座ってください」
門野と長木が立ち、席を譲る。壁際に二人は立って様子を見ることにした。
「では、秋津文綿さん。言い渡しを行ないます」
「はい」
弾正は封筒から書類を出してそれを読み始めた。
「秋津文綿、無罪」
「え?」
鳩が豆鉄砲を食らった表情になる秋津をよそに、門野と長木はハイタッチをした。
「だそうです」
書類から目を離して、弾正が優しいまなざしを向ける。
「でも、私は……」
「ええ、《異人》の行動異常を引き起こすことをしたかもしれませんが、それが直接的なものかは断定できないとのことです。それに呪術の行使は誰でも行っていること…いえ、誰でもではないと思いますが」
再び書類に書かれてある判決理由を読みながら、弾正はそこにツッコミを入れている。
「だから、呪術の規模がでかい小さいからと言ってそれは判決に響かないと……え? しかしこれに関しては調査を続ける? それでよくこの判決が言えましたね」
「そんな……私のせいでここにいる皆さんに怪我を……」
「それは仕事ですから。巡回の途中で転んだだけじゃないですかね。ね?」
弾正は壁にいる二人にそっと視線を送る。
「まあ、ちと痛いコケ方だったけどな」
「私なんて石が飛び散るくらいの派手な転び方だったわ」
「門野君……長木さん」
二人は笑顔で涙目の秋津に答えている。
「それにですね。あの酔っ払いもとい、所長の所業が解明されました。秋津さんの言ったことを裏付ける書類やデータ、物証も発見されました。所長は裁判沙汰になるそうです。刑事でも民事でも争われるようです。有罪実刑、敗訴確定的です。それも秋津さん、あなたのおかげなんですよ。あなたはまだ承服できないかもしれませんが、あの《異人》の弔いになりませんかね?」
「あ……ありがとうございます」
顔を下げ、涙をためらうこともない秋津の肩を、長木がそっと触れる。
「次の休みの日、お花を手向けに行かない?」
その言葉に顔を上げる秋津。さらに涙が涙腺に溢れ出す。
「行ってくれるの?」
「もちろん」
「うん、ありがとう」
再び零れる涙をポケットから出したハンカチで押さえる。
「俺も行くからな」
「うん、ありがとう」
「僕もいることをお忘れなく」
「はい、ありがとうございます」
秋津の涙が収まるまで三人は何もしゃべらなかった。
送られてきた書類には追記があった。
「秋津文綿を新たにメンバーにすることを命ずる……?」
弾正は読み上げた。秋津の特殊能力は、《異人》の情報収集やコミュニケーション、交渉に役立ることができると推測されると。
「でも……これ以上甘えることは……」
秋津は気が引ける。無罪の上にメンバーへの登録である。
「いいじゃねえか。もしよ、今回の件で気に病んでいるならよ、メンバーでの活動を償いだと思えば。それによ、お前が歩み出した道にもってこいじゃねえか?」
「門野にしては良いこと言うわね。私も同じよ。秋津さん。一緒にやりましょう」
「ありがとうございます」
秋津はもう一度頭を下げた。
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