ミドルレンジシュートをご存知でしょうか

一筆書き推敲無し太郎

第1話

ミドルレンジシュートをご存じでしょうか。

そもそもなんのスポーツなのかって感じでしょうか。

バスケットボールです。ミドルレンジシュートはご存じありませんか。そうですか。

確かにサッカーのコーナーキックや野球のホームランなどと同等の認知度を誇るダンクシュートや3Pショットの方がバスケットボールにおいては有名ですからね。仕方ありません。

ミドルレンジシュートというのはフリースローライン付近やエルボー(フリースローラインの左右の角)からのシュートです。

わからない?そうですねぇ。だったらゴール下ではなくて3Pでもない所から打つシュートであると言えばわかりませんか。ああもう、説明は以上です。話を聞いてくださいよ。

僕はね、このシュートが得意なんですよ。なんですか、自慢話だって?聞いてくださいって。

ここしか僕の取り柄が無いんですって。部活の中で秀でている要素がここしかないんです。

キャプテンと監督に褒めてもらった唯一の行いなんですから。

そういえば僕について話していませんね。話を聞いてもらうのに必要ですよね。

僕らは全国大会と無縁のお気楽部活動…と言うと怒られそうですが。

地区大会で3回戦行けたらいいなって位の部活チームです。

今年のチームはスタメンを5人揃えてベンチ2人の7人体制です。

え、僕ですか?僕はスーパーサブとしてベンチで記録係ですよ。

なんですか、記録ってとらないと試合は水物じゃないですか。オールコートで走り続けてるスタメンのファウル数とかディフェンスのフォーメーションとか、オフェンスのスタイルとか、誰が得点したとか。これはコート中に居る人にはできないんですよ。

だから僕は大事な役目をしているんです。

スーパーサブってのはそういうこと?それ以外になにかあるんですか?

って、水筒を用意したり、汗拭きタオルを渡したり、ケガしたスタメンの手当をしたり。

…マネジャーが居ないんです。はい。

って僕の話を始めますよ。地区大会2回戦で最後の5分で僕にお鉢が回ってきた事を話したいんです。その5分間の前に、うちのエースが鼻血を出して交代することになったんです。止血処理って意外に時間がかかるんです。試合だと特にアドレナリンが分泌しているから止まらないんです。

僕は試合に出られる喜びとエースと交代するという重みがありました。それに、公式戦初出場、58vs56という接戦。負けてるとも勝ってるとも言えないんです。バスケットボールだと。0vs2みたいなもんですから。そこに僕が出なきゃならなくなったんです。鼻血を出した理由はファウル貰ったとかでもなく、彼は鼻血出しやすいんです。だから相手ボールで始まったんですね。

5分間心臓がおかしくなった位、心拍数を計っておいたら160とかいったんじゃないでしょうか。ド緊張です。エースに託されたといえど僕には重たい。足が竦んだんですが審判の笛が鳴ったら動き出せました。ボールを僕に回さないでくれってボール運ぶ役目の人に言いました。

臆病だって?戦術なんですよ。相手側はスーパーサブの僕がどういう役割のバスケ選手かわからないし、流れを変えるためには僕は温存するべきなんです。勿論、これは試合前の練習でも戦術としてボール運ぶ人と決定してます。「お前がもしスーパーサブとして出るならミドルレンジシュートしかないもんな!最初はディフェンスに集中一本!間を見ていつものミドルレンジシュート、打ってくれよな!」って言って貰ったんです。そのためにスーパーサブの僕は息をひそめたんです。

試合は接戦のまま続いて、僕は相手側から人数合わせだと思われ始めたころに、僕にボールが回ってきました。ミドルレンジシュートを打つチャンスです。まずは同点にしなければ。そう思いシュートしました。パシュッと。公式戦初得点同点ゴールです。喜び震えました。そこから相手は僕を警戒しはじめてマークをつけるようになったんです。スーパーサブだもんなぁって心中舞い上がってました。また僕にボールが回ってきました。ミドルレンジシュートだ!

ディフェンスの相手が焦って僕の目の前で飛び上がる。でも弧を描いたボールはパシュッと入ったんです。でも「ファウル!ディフェンス チャージング!」と。

バスケ知らない人だとわかんないかもしれませんが、この場合だとフリースローの権利が僕に与えられた上で入ったシュートが2点として加算されるんです。3点シュートみたいなもんです。

それで僕はフリースローを打つ権利を行使するためにフリースローエリアに入ったんですね。


お気づきでしょうか。試合時間です。68vs68で、残り35秒。僕がフリースローを決めれば68vs69で勝てる範囲内です。


お忘れでしょうか。ド緊張。公式試合の地区大会。実は引退がかかっているんです。僕がここで決めたら。決めたら。ディフェンスに専念して勝てる。だろうと。


ご存知でしょうか。フリースローってボールが渡されてから5秒以内に打たないとならなくて。その間はタイマーが止まっているんです。


その5秒で僕らの人生は変わるんです。不思議ですよね。今5秒無駄にすることはいくらでもあるのに、信号待ちとか、印刷待ちとか。

でも5秒で本気ださないとならない瞬間なんて青春ですよ。

僕は5秒超過してしまった。5秒でいろいろ考えてしまって。5秒超過するとヴァイオレーションといって相手ボールではじまるんです。やってしまった。エースがヤジ飛ばしてる。鼻血止まんないみたい。僕の行いで余計に鼻血でてるみたい。


覚えてますか?ミドルレンジシュートの詳細。フリースローも得意な位置関係なんです。でも打てなかった。打たなかったとは違う。

でも結果論だと打たなかった奴扱いです。そのまま、相手ボールのまま、あっさり相手は点を決めたんです。ミドルレンジシュートで。そのままタイムアップ。


僕の話を聞いてくれてありがとうございます。フリースローは今何回やっても入るんですが、当時は入らなかった、打てなかった。今でも思い出すんです。でもミドルレンジシュートの説明を一からすると難しいかなって。僕はミドルレンジシュートが持ち味だし、前後関係も頭に入れて欲しいんです。だから、だから。5秒を大事に使うんです。今求められている事柄について。そういう生き方になったんですね。僕は。

当時何度も謝りましたが、チームメイトの気の良さに、優しさに、しょうがないよって気遣ってくれたことが逆に辛くって。それから部活に行くのは辞めました。といっても引退と同時期なので…。

今でもミドルレンジシュートは練習なので得意です。取り柄です。

でも、公式試合とかやったら入らないんだろうなって思うんです。

ミドルレンジシュートが得意って言わない方がいいんでしょうかね…

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ミドルレンジシュートをご存知でしょうか 一筆書き推敲無し太郎 @botw_totk

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ