卒業式の黒板落書き最終決戦
《男子高校生、くだらない戦争》シリーズ/第9話
卒業式の黒板落書き最終決戦
卒業式の日、俺たちはチョークに支配された。
理由は後回し。まずは黒板だ。
ルールは三つ――消すな/書き足すな/勝敗は卒業式のチャイムまで。
《準備》
教室最後の黒板は自由落書きタイム。
「ありがとう」「バイバイ」「○組最高」――真面目な言葉で埋まっていく。
その隅に、ひとりが大きく書いた。
「○○死亡」
「またかよ!」
笑いが走る。
「報告! 落書き再犯発生!」
「作戦続行!」
《第一波》
「○○復活」
「○○転生」
「○○異世界行き」
続々と書き足され、黒板はすぐカオス。
誰かが「これもう小説じゃん」と言い、誰かが「いや卒業文集だろ」と返す。
《事故寸前》
チョークを奪い合って机が倒れる。
バケツの水がこぼれて、床がびしょ濡れに。
「やべ! 卒業式前に床死亡!」
笑いが爆発する。怒られるのはわかってる。止められない。
《決戦》
黒板の中心に残った最後のスペース。
そこに全員で文字を重ねる。
「○組不滅」
白い粉が舞う。チョークが次々に折れていく。
文字は読めないほどに重なり合った。
でも確かに、俺たち全員の筆跡がそこに残った。
《教師乱入》
担任が入ってきて、黒板を見た。
「……何これ」
少し黙って、笑った。
「……お前ららしいな」
怒られなかった。ただ笑われただけ。
それが一番嬉しかった。
《結論(雑)》
黒板の落書きはすぐに消された。
でも、白い粉が手のひらに残って、匂いと笑いが胸に刻まれた。
――くだらないのに、最後に残したのは「不滅」の一文字だった。
俺たちの戦争は、卒業式までちゃんと続いてた。
――了
⸻
《居酒屋エピローグ・10年後》
焼き鳥の煙、ビールの泡。
あの頃の仲間が、十年ぶりに集まった。
「なあ……黒板、覚えてる?」
「○○死亡から始まったやつ?」
「そうそう。不滅って書いたよな」
笑いが止まらない。
「くだらなかったな」
「いや、今もくだらないじゃん」
ジョッキがぶつかる。声が重なる。
くだらないのに、なぜか目頭が熱い。
白いチョークの粉はもうどこにも残ってないのに、
俺たちの中にはまだ、消えずに残っていた。
石ころを駅まで蹴って帰った俺たちの三十分戦争 御恵璃緒 @mimegumirio
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