魔王軍の気配

パーティー行動の始まり



 イッテツは、上級冒険者パーティのエラリアとリヴェリアと行動を共にすることになった。



 最初に彼が直面した問題は魔族とはまったく無関係なものだった。



「あんた、普段どこで寝泊りしてるんだ。あたしたちは、近くの宿だけど」



 ギルド併設酒場にいるイッテツにリヴェリアが問う。



「ここだよ」



 イッテツは両手をわざとらしく広げてみせた。エラリアとリヴェリアが怪訝そうに見る。すると、驚く気配に変化した。



「つまり、酒場の席を占有してるってことですか?」



 エラリアの質問にイッテツは頷きだけで応じた。呆れと驚く空気が漂う。



「まあ、ここのギルドが何も言わないなら、別に気にはしないけどさ。あんた本当に変わってるよな」



 リヴェリアがため息をつく。



「俺はここにいる。早朝には起きてるから、その時また詳しく計画を立てようぜ」



 イッテツは眠たそうにわざとらしく欠伸をすると、テーブルに肘をついた。



 エラリアとリヴェリアの二人は「また明日来る」と言って宿へと帰って行った。



 イッテツはしばらくの間、葡萄酒を飲み続けていたが、次に気づいた時には翌朝になっていた。いつものテーブルに突っ伏していた。イッテツはいつも通りに潰れていた。



「あー……口の中が気持ち悪い……」



 イッテツは触覚を頼りに歩きだし、ギルドの中庭の井戸までやってきた。水を汲んで軽く口の中をすすぐ。少しはマシになった気もしたが、まだ気持ち悪さは残っていた。



 そのまま、またギルドに入る。セシリアらしき気配が近づいてくることに、イッテツは気づいて足を止めた。



「おはよう、イッテツ」



 セシリアが言った。



「ああ、おはようさん」



 イッテツは軽く挨拶を返して、そのまま歩こうとした。しかし、すぐにセシリアが話始めたので、その歩みを止めた。



「あの二人と仕事をすることになったわけだけど、うまくやれそう?」



 セシリアが珍しく心配を隠さなかった。



「さあ……なんとかするさ」



 それにイッテツは乾いた笑い声をあげて答えた。



「パーティ行動は連携が大事。しっかり意思疎通はとるように」



「ああ、そうだな。そうする」



 セシリアの真面目な声に、イッテツは頷く。それを聞いて満足したセシリアが離れていく音がした。



(いやはや、うまくやらんとな……)



 イッテツは座席まで戻り、そのままエラリアとリヴェリアがやって来るのを待った。



 しばらくして、冒険者たちが仕事を求めて集まりはじめた。イッテツはそのとき、エラリアとリヴェリアが近づいてくるのを気配で気づいて席を立った。



「そういや、おめえさんらは……魔導士と戦士で良いんだよな?」



 イッテツは念の為、そう二人に問いかけた。もしも、認識にズレがあれば大惨事になりかねない。ちょっとしたズレが命取りになる。



「ええ、そうですよ」



 エラリアが答える。



「おう、そうだ」



 続けてリヴェリアが力強く頷く気配があった。



「そうかあ、そんじゃあ、仕事について話し合うかねえ……」



 イッテツがそう言うとリヴェリアが声をあげた。



「おいおい、まだあんたのことを聞いてないぞ? 戦士……で良いのか?」



 リヴェリアの言葉を聞いて、一瞬だが戸惑った。すると、乾いた笑い声をあげた。エラリアとリヴェリアが少し困惑する気配があった。



「まあ、そうなる。戦士、剣士……好きなように思ってくれ」



 イッテツはそこまで言って、大きな欠伸をした。



「……そうですか。あなたに卓越した剣技と感覚があるのは、既に知っています。よろしくお願いしますね」



 エラリアの冷静な声が言う。



(そう言ってはいるが、あんまり俺を前には出したくなさそうだなあ……無理もねえか)



 イッテツはエラリアの冷静な態度の裏に、実力への不安が隠れているのを感じ取っていた。リヴェリアからも、同じものを感じる。



(これからの働き次第ってところかね……)



 イッテツと二人。まだまだお互いに理解度は低い。これから行動を共にする中で、その溝を埋めていく必要がある。それはイッテツも、そして彼女たちも感じていることだった。



◇◇◇◇◇◇



 まず、イッテツたちが話し合いで共有できたのは追う魔族の特徴と名前だった。



 ギルドの中では筒抜けになるからと、聞き耳を立て難いギルドの個室でイッテツたちは話し合いを行っていた。



「マレフィカという女魔族が、あたしたちの標的だ。魔物操作に優れた魔族で、各地で騒動をおこしてるんだ。人の中に紛れるのもうまい。なにより厄介なのは、娯楽感覚で騒動をおこすこともあるってところだ」



「なるほどねえ……俺はあの気配を覚えたから、近くにいたら気づけると思うぜ」



「あなたのその気配察知は、魔法も見破れるのですか?」



 エラリアが問う。魔法を見破れるか? そう聞きたいのが伝わってくる。



「少なくとも……おかしいってことは気づける。近くにいればの話だがな」



 イッテツには実際、擬態魔法を見破った経験が過去に何度かあった。自信はある。



「ほおん……じゃあ、もし何か気づいたら頼むぞ」



 リヴェリアが言う。一応程度には、イッテツの言うとこを信じている雰囲気だった。



「あいよ」



 短くイッテツはこたえる。



「正直、潜伏してるマレフィカを捜索するのは至難の業。魔物の目撃情報を集めて、見かけ次第に叩くのが無難だと私たちは考えています。被害も最小限にできますし、魔物の群れの付近にマレフィカがいたという目撃情報も実際にあります。イッテツさんが遭遇したのも、そういうことかと」



 イッテツは「なるほどねえ」と頷く。確かに、宿場町への襲撃の時もすれ違ったことを考えれば、指示を出すために魔物たちとギリギリまで、行動を共にしている可能性は高いだろう。



 それからしばらく話し合ったが、結論は「魔物の群れを叩いて潰していく」というものになった。実にわかりやすい作戦だ。



しかしそれは同時に、そうするしか対抗策がないことを意味していた。つまり、事態は切迫しているのだ。


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盲目の冒険者”イッテツ” Gonbei2313 @Gonbei2313

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