ぼくのうしろにいるのは
霜月あかり
ぼくのうしろにいるのは
夏の夕方。
ゆうくんは、ひとりで公園を歩いていました。
ふと地面に目をやると、そこに黒い形がありました。
細長くのびた、不思議なかたち。
「……なに、これ?」
ゆうくんは思わず立ち止まりました。
けれど黒い形は、ピタリと地面にくっついたまま、ゆうくんのすぐそばにいます。
ゆうくんはこわくなって、走り出しました。
でも――黒い形も、するすると一緒にのびて追いかけてくるのです。
「やだ! ついてこないで!」
全力で走っても、止まっても、黒い形はかならずそばにいる。
胸がドキドキして、つぶれそうになりました。
けれど、ふと気づきます。
走れば走るほどのびて、立ち止まればピタリと止まる。
手をぶんぶんふれば、同じように黒い形もぶんぶん。
「……あっ! これ、かげなんだ!」
気づいたとたん、胸のドキドキが、すこしずつワクワクに変わっていきました。
ゆうくんはジャンプしてみます。すると黒い形もぴょん!
すべり台にのぼれば、かげもスルスルのびて。
ブランコをこげば、ゆらゆらと揺れます。
「へへっ、なんだ。おともだちみたいじゃないか」
けれど空がオレンジから群青に変わり、夕日がしずむと、かげはだんだん薄くなっていきました。
「まって! いっしょに遊んでよ!」
ゆうくんは手をのばします。
でもかげは、にじむように消えていきました。
――また、あした。
かげがそう言ったように、ゆうくんには思えました。
さみしさと、あたたかさがいっしょになった気持ちで、ゆうくんは小さくうなずきます。
「うん、またあしたね」
夜の公園にひとり。
でももう、ゆうくんはこわくありませんでした。
だって、明日もまた“かげのおともだち”があらわれるのですから。
ぼくのうしろにいるのは 霜月あかり @shimozuki_akari1121
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます