悪友と花火

脳幹 まこと

清々しいほど青いシャツ


 アイツが清々しいほど青いシャツを着て、俺の家までやってきた。


 近くで花火大会やってるから、一緒に行かねえか? って。


 そういうガキっぽいのは嫌いじゃなかったかと言い放つ俺の頭を、わしゃわしゃするアイツの手は、なんか必死こいてて、滑稽で。


 会場に向かうまで、のっぽのマンションが通せんぼする道を無言で歩いた。


 いつもはどっちとも知れず話が始まるんだが、今回はどうにも始まらない。誰の手番か忘れたダウトみたいに気まずい。 


 夜空が音で揺れるさまは、祭りというより号砲で、どうにも急かされる感じがした。俺もアイツもちょっと足早な気がした。


 角を曲がった途端、それがパッと光った。直後、ジーンとした重低音が身体を抜けていく。


 もういいんじゃねえか、と思ったけれど、アイツがない袖を引っ張るものだから、渋々人混みの最後尾に立って、ぼんやりそれを眺める。


 花が上へ上へと昇って、ぱあっと弾ける。

 その繰り返しがこんなに魅力的なのはなぜだろう。


 子供と一緒にはしゃぎたくなるのを堪えて、隣にいるアイツの顔を見ると、あいつもこちらを見ていてビビった。


 マジか。流石腐れ縁だな。


 花火は次々と上がって、空を染め上げる。観客も見ずに、勝手に盛り上がって、魅力全開で。

 本当に憎たらしいほど陽気なやつ。この人たらしめ。


 楽しかったよな、とアイツが言うから、

 ああ、楽しかったと俺は答えた。


 夏が終わりそうになると、いつも振り返る。


 そんな日のこと。


 アイツはきっと知らないだろう。

 あの日から、嫌いだった花火大会に、毎年顔を出すようになったことを。

 まあ、一人ではしゃぐのは、どうにも心許ないから、あの青いシャツを着ておくんだけど。

 足早に去っていった、誰かさんの代わりに。


 なんだよ。

 ちゃんと、楽しかったんだぜ?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

悪友と花火 脳幹 まこと @ReviveSoul

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ