暗がりの中だからこそ星は瞬く
- ★★★ Excellent!!!
それでも彼女と生きていた。
コメディのように見受けられるタイトルとキャッチコピーの裏切りが鮮烈である。
主人公の純粋な一人称視点で進行することで、痛みのまま終わらせず、ヒロインの生きた軌跡を愛くるしく残した波形が見事。
本作は一話から最終話まで主人公の一人称書きで進んでいく。その視点縛りの中で、これほどまでにヒロインや周辺人物の心情内面を深堀し、主人公の目線だけで、まるで読者から感情を引き出すように人物の情緒を訴えてくる技術はそう簡単に手に入れられるものではない。よこすかなみ先生の経験と実力を感じた一作だった。
読みやすい文体であるが軽くなりすぎない地の文が、本作の「光」と「影」を互いに干渉することなく「読ませる文体」としての完成度が圧巻。
また、各エピソードの主題に合わせてテンポ調整も非常に巧で、人物とその場を共有していると錯覚しうるきめ細かな息遣いまで感じる描写もあれば、それまでにない勢いでページを捲る手を早めてくる見せ場のシーン。その全てが読者の「続きを読みたい」に繋がっている。
フック形成も巧妙であり、各話の中に潜む疑問やページラストに、次も主人公たちの世界を覗いてみたいと思わせる仕組みがあり、離脱するという選択肢がなかった。
表題の裏で誰一人として傷を抱えていない者がおらず、闇の中に生きている人たちだからこそ、なんでもない日常に浮かぶ些細な出来事も星の瞬きのように感じてしまう。
そんな「儚さ」が、白く透明感のある容姿の女の子――猫目ナツという存在そのものから伝わってくる、人物設計から物語の着地点まで一貫性の強いものがたりに、よこすかなみ先生の非常に高い構成力を感じた。
一見読者サービスのように思うシーンも、二読目には価値がまるで違って見える。
再読するたびに胸を締め付けられるこの物語に出会えたことに感謝したい。
大変すばらしい読書体験をありがとうございました。
また拝読させていただきます。