愛に染まる――今、誰かを尊敬する人に、読んでもらいたい一作です。
- ★★★ Excellent!!!
師弟の影響と在り方を染物に掛け合わせた題――あいぞめ。
最終話を読んで、タイトルの意味が一つの輪に繋がる構成が見事である。
俳句をテーマにした文芸作品で珍しい舞台ではあるが、俳句に触れたことのない読者でも背景がすっと伝わってきて、描写に過不足がない。主人公の地の文の語り口が「ですます調」である点からも、句や専門用語に対して、過剰に説明的であるような違和感もなく、始終没入感を阻害せず、表現の技量を感じた。
尊敬する師の句に、自分の句が似てきてしまうリスペクトと模倣の違いーー
その一件をめぐる物語であるが、最終的に主人公が導き出した結論は俳人の師弟という枠を超え、先人が次世代に文化を継承していく世の中――親子や兄弟、数多の人間関係において普遍的に、共通している部分があると思う。
それを染物ひとつに例えて表現したインパクトは強力であり、筆者の中に圧巻の読後感と残響を残した。
芸術の最小単位である俳句。その世界観を二万文字に閉じ込めた本作は間違いなく、最小単位をより深層まで落とし込んだ芸術作品であると感じた。
気が付けば筆者も、この藍に染まりたいと思えてやまない。
大変すばらしい読書体験をありがとうございました。