第5話
宇宙からの侵略者:ダジ姫の正体
人々を恐怖に陥れる「宇宙からの侵略者」と呼ばれるモンスターを知っているだろうか。
どこからともなく現れ、人々を静かに襲う恐ろしい存在だ。
だが、その正体を知ると、「なるほど」と拍子抜けするかもしれない。そのモンスターとは、酒場で殴り合いのケンカをしていたダジ姫その人だ。
なぜ謎のモンスターとして扱われているのか。
一つには、ダジ姫が所属するシトゥラの盟約が、
国を持たない民族集団で、王宮から見れば行動が掴めない非公式な集団だからだ。
もう一つは、ダジ姫がセリュ王妃と同じ「神狩り」を行い、
別の神になりすまして正体不明になっていたことだ。セリュ王妃からすれば、
神の名前を奪うような悪事を自分より先にやっていた者がいたとは思わなかっただろう。
神狩りを行うつもりが、実は神になりすました姫を狩ってしまい、
両者の間で争いが起きた。
まあ、そんなところだろう。ダジ姫は嫉妬心が強く、負けず嫌いだ。
自分より目立つ姫をいじめや暴力で屈服させるのは朝飯前。
バーサーカーと呼ぶにふさわしく、モンスター扱いされても仕方ない。自我の強い人物ばかりの宮殿では、
平和などそう簡単に訪れないのだ。
ヘノヴィア・ヴェルサディア姫の疑惑
つい最近、街を歩いているとき、
英雄とされるヘノヴィア・ヴェルサディア姫の肖像を見つけた。
確か、十年前にダンジョンを制覇した英雄として知られていたことを思い出した。だが、街の人々も王宮の人間も、彼女の情報をほとんど知らない。
あるいは、強いヒーローだと盲信しているだけだ。
そんな疑惑が頭を離れない。
皇子の中には、傭兵だった私や他の兵士を彼女と勘違いする者も多く、
イリュージョン系の魔法がいかに打ち破られにくいかを身をもって実感する。ヘノヴィア姫については、私もほとんど知らない。
調べさせない何かがあるようで、断片的な情報しか得られていない。
たとえば: アルカナムというものを収集している。
ネクロノムシステムという音楽を用いた操作魔法を扱う。
ネザリス・ヴェイルという究極の楽園思想で民衆に希望を与え、支持を集めている。
これらはすべて未知の情報で、調査不足と言わざるを得ない。
個人的に彼女との間で抱えているトラブルもある。
騎士団の所有権争い、アルカナムの納品先を巡る詐欺事件、
傭兵代の未払いなど、しぶとい問題ばかりだ。特に騎士団のトラブルはひどい。
ヴィタリス騎士団で私に任された部隊が気に入らないと、
彼女は私の部隊を自分の好みに作り直す代わりに寄越せと言ってきた。
世間ではおおらかで明るい性格とされているが、
実際はかなり神経質な性格が見え隠れする。 ヘノヴィア姫にはまだまだ闇が隠されていそうだが、
これ以上巻き込まれるのは嫌だ。
できるだけ穏便に解決したいものだが…。
タイガ将軍とムト・ガルディアの英雄譚
今、世間で噂になっているタイガ将軍とムト・ガルディアについて話そう。
若者が夢中になる英雄譚では、
タイガ将軍が正義の戦士、ムト・ガルディアが悪の魔法使いとされている。
だが、実際にはどちらが正義で悪か、割り切れるものではない。正直に告白すると、
私がムト・ガルディアの「闇魔法浄化計画」を企画したせいで、
今の話題になってしまった。
このままでは黒幕扱いされそうなので、早めに弁明しておこう。事の始まりはこうだ。
ムト・ガルディアは優秀な将軍として活躍していたが、
魔法や回復魔法の使いすぎで全身が魔力汚染され、
意識が朦朧としている状態だった。
そこで、タイガ将軍とムト・ガルディアを対立させ、
闇魔法を分散させてその間にムトを回復させる計画だった。だが、英雄譚として有名になりすぎ、
本来の目的が見失われていないかと気がかりだ。
改めて言うが、私は悪くない。
私の名前の謎
私が多くの人物と間違われる原因は、
おそらく王都で正式な名前の登録がなかったことだろう。
「獣」や「野獣」といったいい加減なイメージで語られている。
ここでは、私の名前をテトラス・グラウンと自称しておく。王宮では単なる便利な傭兵としてしか扱われていないので、
私の名前などどうでもいいのかもしれない。
だが、十数人の姫や皇子の身代わりや代役として、
仕事の穴埋めをさせられてきた。
現役引退が近い私が去った後、
王宮の仕事が滞るのではないかと心配だ。
欲望の街:ナイトメアフォートレス
「約束の地」「永遠の楽園」「あらゆる幸福が集まる場所」。
街の計画書には、そんな美しい謳い文句が並ぶ。
だが、実際にこの街を見た者の感想は異なる。ここは「あらゆる欲望の街」。
金と権力を求める者、己の実力で権力者を蹴落とすことを夢見る荒くれ者たちが集まる。
永遠の楽園とは程遠く、人間の欲望だけが渦巻いている。
この街の名はナイトメアフォートレスだ。己の欲と夢を叶えた者もいれば、
夢破れて儚く散った者も多い。
あるパーティは魔王に挑み、ほぼ全滅したと聞く。
ある富豪は王宮に並ぶ力を得ようと全財産を投入したが、
全く及ばず破産したらしい。欲望は人から正しい判断を奪う。
はたから見れば、私は簡単な仕事をしているだけに思えるかもしれない。
だが、思い出してほしい。
神狩りや闇の動力システムといった、
究極に呪われたシステムが存在し、
それによって王妃や魔王が力を得ていたことを。
決して楽に強さを得たわけではない。
命を刈り取って繁栄を築いているのだ。
これは呪いだ。
物理法則がねじ曲がるなどあり得るのか?
繁栄と犠牲は常に結びついているのではないか?くれぐれも、人の道を踏み外さないように。
闇を生きるのは簡単ではないのだから。
王宮秘文書 真蛇ナナコ @higanhina
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