ありのままでいれたら
レンジでチン
返信するのも一苦労
【一件の通知が届いています】
スマホの音を聞くや否や、僕はその通知の中身を確認する。
「……あ」
そうして僕はその内容に驚愕して……
「……水着イベント今日からだっけ……!?」
僕の名前は
僕はその昔からやっているスマホゲームのイベントを確認するや否や、すぐさまアプリを起動すると、慣れた手つきでデイリーミッションを終わらせると、イベントのストーリーをスキップしながら進めていき……
「……レンジ、またゲームやってんのか?」
そうして僕が画面に集中していると、ふと誰かから声をかけられる。
「……あ、亮太朗」
コイツは
そして、僕は亮太朗からは【レンジ】と呼ばれている。他にこの呼び方をする奴らはいない。ま、おそらく俺の名前などどうでもいいんだろう。
そして亮太朗から声をかけられて思い出したが、現在僕は部活を終わらせ歩き帰っている途中だった。そう、因みに僕はバスケ部に一応所属している。しかしバスケは得意ではないし、そもそも運動がそこまで好きじゃない。じゃあ何でバスケ部に所属しているかというと……
「え!? 成またゲームやってんじゃん!」
「あ! 俺このゲームやったことあるぜ! 一週間でやめたけど!」
「このゲーム、確かめっちゃ可愛い女の子出るやつでしょ!?」
そうこうしていると、他のバスケ部の仲間が僕に話しかけてくる。
「あ……そ、そうなんだよね」
取り敢えず僕は相槌を打つ。
「てかさー、この後カラオケ行かね? 久しぶりに!」
「お前、この前も行ってただろ!」
「つーか今度プールとか行きたくね!?」
「それな! 今度予定確認しようぜ!」
「……」
話し出したら止まらないマシンガントーク。無駄に大きい話し声。何故か感じてしまう圧力。これぞまさに陽キャ。
「成も一緒にカラオケいかねーか!?」
「え、えっと……今日は用事があって……」
「そっか。じゃ、また今度いこーな!」
「う、うん……また今度……」
イベントの周回は用事に入ると、僕は思っている。それに、貴重な夏休みなのだ。普段は取れない【時間】というものが、夏休みにはあるのだ。こんなの、ゲームの周回のために存在していると言っても過言ではない。
それに僕には僕は言ってしまえば……こういう空気があまり好きではない。
僕は陽キャに成ろうとして成れずにいる、中途半端なただの陰キャなのだ。
高校デビューで今までの自分から変わろうとしたのだが……部活に入るところまではよかった。問題はそこからだ。
僕はもう引き返すことができなくなっていた。
でも、部活の仲間たちは悪い奴らではない。むしろ優しくしてくれる、いい奴らだと僕は思っている。だが……合わない。僕と彼らは一緒にいるべきな存在ではないのだろう。この数か月で僕は理解したのだ。
「亮太朗は来ないのか?」
「……俺も用事がある」
「そか。じゃ、成と亮太朗はまた今度な!」
そうして亮太朗以外の他の部活仲間たちは別方向へと歩き出すのだった。
(……僕も早く帰らないと……)
そうして僕は逃げるような足取りでそそくさと家へ帰ろうとする。のだが……
「……レンジも用事があるのか?」
後ろから亮太朗の声が聞こえてくる。
「……うん、今日はちょっと……」
「ゲームのイベント周回は用事に入るんだな」
「……亮太朗だって誘い断っただろ」
そう、亮太朗も僕と同じように高校デビューをして部活に入った人間の一人、要は僕と同族だ。
ただ、僕と亮太朗では決定的な違いがあった。
〈ピロンッ〉
そうしてスマホの通知の音が鳴り響く。その音は僕のスマホからではなく、亮太朗のスマホからだった。
「……悪い、早くいかないとクラスの奴らがうるさいんでね」
「……そうか」
亮太朗は僕と違い、クラスメイトとの仲がいいのだ。だからこそ、部活の奴らの誘いを断ってまでクラスメイトとの遊びに行こうとする。
亮太朗がここまでクラスに馴染めているのは、近くで見ている僕にもよくわからない。僕との違いを挙げるなら、背が高くて、顔が整ってて、運動神経が良くて、勉強ができて……
(……あれ、コイツ完璧じゃね?)
よくよく考えてみればコイツ、性格が少し暗いだけであって、別に欠点があるわけではない。僕とは違って。
「……じゃ、レンジも頑張れよ」
「あっ……え……う、うん……」
そうして亮太朗も僕とは反対方向へと歩き始める。
僕は一人、その場に取り残されていた。
(……)
よくわからない喪失感に苛まれながら、一人その場に立ち尽くす。
(……帰ろ)
とにかく、僕は家に帰ることにした。
〇
そうして僕は自分の部屋のベットの上で一人スマホの画面を見つめる。
(……全然やる気が出ない……)
いつもならランキング上位を目指して夜通しやったりするのだが……今日は30分くらいで集中力が切れていた。
「……はぁ……」
スマホの電源を切ると、その黒く染まった画面に自分の姿が映る。目に光はなく、ただぐったりとした表情を浮かべていた。
〈ピロンッ〉
黒く染まった画面に再び光が宿る。その通知を確認すると、バスケ部のグループのラインにカラオケに行った奴らの写真が載せられていた。
(……)
うらやましいとは思わない。そこに居たって、ただ気まずくなってしまうだけだから。行かなくてよかったとは思っている。なのに……
(……負けた気分だな……)
今まで張られていたレッテルを剝がすことは、どうやら難しかったみたいだ。
(……それに、亮太朗も今頃クラスメイトと遊びに……)
それでも、奴らは全く悪くない。悪いのは馴染めない僕の方だ。自分の不都合を相手に押し付けることは、自分から目を逸らすことしかできない、弱者のすることだ。それでも……
(僕は……弱者だ)
下手に高校デビューだとか、言わなければよかった。自分に合わないことを、無理に始める必要なんて、なかったのだ。僕は僕のままでよかったのだ。周りに流されて、ネットの情報を鵜吞みにして、偏見だけで物事を判断して、
(……)
再びスマホの黒に僕の姿が映る。なんだかさっきよりも生気が感じられなかった。
「……眠い」
考え事をしたせいだろうか。僕は激しい眠気に襲われる。そうして流れるようにベットに倒れこむ。
天井を見上げながら、僕はゆっくりと目を閉じていき、その意識は暗闇へ落ちていく。
イベントの周回のことなんて、すっかり記憶から抜け落ちていた。
〇
翌日、僕は昼過ぎに目を覚ます。時間にして10時間以上、僕は眠っていたことになる。これも夏休みだからできること、なのだろうが……僕は休みの日に寝るのは勿体ないと、そう思ってしまう。
休みだから寝れる。休みじゃないから寝れない。いつの間にかそういう考えが体に浸透していく。
そうしてだんだんと睡眠時間が少ないことに何の違和感も感じなくなっていく。
6時間も寝られたとか、3時間寝たから十分とか。小学生のころは8時間は寝れて当然だった。何だったら0時まで起きていられなかったのに。
睡眠を削ることが、だんだんと当たり前になっていく。
だからこそ、こうして睡眠によって時間が無駄になることに苛立ちを覚える。
苛立ちを……覚える……
「……起きて、何をするんだ?」
イベントの周回もやる気がなくなった。約半日、無駄にしてしまったのだ。今更やる意味なんてない。だったら、課題でもやるか? それはもっとやる気がない。大体課題なんて、最終日にやってなんぼだ。じゃあ……何をする? 何を……
〈ピロンッ〉
スマホから、通知音が鳴り響く。
「……」
確認すると、それはバスケ部のラインからだった。どうやら今日は地域の夏祭りがあるらしい。
他の奴らはみんな、行きたい、時間いつから、花火はあるか、他に友達呼ばないか、楽しみ、そんな反応を各々している。
それに、珍しく亮太朗もその祭りに行くらしい。
「……」
夏祭り。人混みが多すぎてまともに動けない、花火の音が大きすぎて話が聞こえない、屋台はぼったくり、至る所に陽キャやカップル、屋台の煙の臭いと香水の匂いが混ざり合って吐き気を催す、最後に……僕とまともに話せるのは亮太朗だけ……
僕の答えは、決まりきっていた。
〇
俺の名前は月島亮太朗。高校一年生。中学の頃は陰キャとして周りから蔑まれていた。声が小さい、暗い、隣の席になると気まずい、さんざん言われてきた。
しかし俺は高校入学をきっかけに、自分を変えることにした。
話すときはなるべく目を見て話すようにするし、なるべく人との関りを増やすようにしたし、声も気持ち大きくしたし、バスケ部に入部したりした。
その結果、俺は現在楽しく高校生活を送ることができている。
クラスメイトとの仲は良好、他クラスとも仲良くなれるよう努力している。今まで運動をする機会はなかったが、意外にもバスケが上手く、一年の中じゃ上位の方に位置する。最近は女子からモテてる噂まで流れている。
俺は、高校デビューに成功したのだ。
今までの俺では考えられなかった、今まで見下してきたやつらの立場に、俺は立つことができている。
だからと言って、いじめだとかをしているわけではない。被害者の気持ちは、俺だって理解している。だからこそ、俺は陽キャにも、陰キャにも、話しかけるよう努力している。
そうして……俺はその席に目を向ける。
「……今日も来ないのか」
蓮城成。俺はレンジと呼んでいるが……それは今関係ない。レンジは、俺が高校デビューを始めるにあたって、最初に仲良くなった友達だ。理由は、何となく話しやすそうだったから。そうして好きなゲーム、漫画、アニメの話とか、同じ部活に入ったり……いろいろと共通点があったりして、レンジと話すのは楽しかった。
その調子で、クラスメイトとも会話をするようにしていった。なんだかんだ、レンジと最初に仲良くなったからこそ、今の俺があるのかもしれない。のだが……
レンジはここ一か月、学校を休んでいる。
理由はよくわからない。ただ、部活の仲間のカラオケの誘いを断ったり、夏祭りにも来なかった。理由を聞いても、返事がくることはなかった。
「……どうしたんだろうな……」
俺には、レンジのことがよくわからない。ただ……俺にとって、一番の友達であることは間違いない。それに……
「亮太朗! 今日カラオケに行かないか!?」
ふと、俺はクラスメイトの一人から声をかけられていた。
「今日……空いてるから、いいよ」
「よっし! 今日は女子も呼んであるから、楽しみだな!」
「……はは……」
「じゃ、一緒に昇降口まで行こうぜ!」
「わかった」
そうして俺はそのクラスメイトと階段を下る。
(……さっきまで何考えてたんだっけ……)
自分の記憶力の低さに驚いてしまうが、忘れてしまうということは、大したことではないのだろう。
「……おい、何ぼーっとしてるんだ亮太朗?」
「……ああ、悪い。ちょっと考え事をな……」
「……因みに何考えてたんだ!? まさかお前……!」
「……何でもねぇよ。早く行くぞ」
そうして俺らはその場所へと向かうのだった。
〇
高校デビュー……か……
ありのままでいれたら レンジでチン @renjidechin113
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