淵底

川之一

1. 目覚める者




 ──『ここにいてはいけない』




 『あなたは……ここで』




 水たまりに水滴が落ちる音が聞こえる。


 体がとても重い……だけど、すぐに動かないといけないような気がした。右手の小指が軽く動く。


 閉じていた両目をゆっくりと開けた。


 「?」

洞窟の中なのだろうか……辺り一面に薄らと水が張っている。座った状態で岩壁に凭れ掛かりながら眠っていたようだ。天井の岩壁にはいくつかの小さな穴が空いており、そこから差し込む陽光が短髪の黒い髪を照らしていた。


 「ここ、どこなんだろ?」

立ち上がると、濡れた黒色のズボンから水が地面に流れ落ちていく。何故こんな場所に自分は座っていたのだろうか。


 今立っている場所が洞窟の奥のようで、先は岩壁で道が無い。地面に溜まっている水はどこから流れてきたのだろう。ふと、洞窟の天井に目を向けた。天井に空いている小さな穴から雨水が洞窟内へと入り、水たまりになってしまったのだろうか。

「水が冷たい。この洞窟から出よう」


 洞窟から出れば、何か分かるかもしれない。



 ……だけど、自分は何を知りたいのだろう?



 黒髪の青年は天井から差し込む陽光を見つめた。

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淵底 川之一 @kawayori

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