大きく育て

友人から聞いた話

私の聞いた話によると住宅展示場で働いている友人、彼の実家がある九州のほうでは、

「大きく育て」という言葉を使わないらしい。

というより使ってはならないものになっている。

まず私がそんな話を耳にしたのは30年ローンで新築の一戸建てを買う中で、住宅展示場に訪れた際、彼が私の担当でその話を聞くことになる。

彼はとある部屋の観葉植物を見ていった。

おそらく、自宅の壁に子供の成長の過程を残すために書き込むような、

そういったことを観葉植物で表したかったのであろうか。

「私の地元ではね、大きく育てっていったらいけないんですよ」

疑問に思った妻が問いかけました。

「それはなぜですか？」

彼は少し悩んだ後にこんなことを話し出した。

「いやあ、奥さん。なかなか鋭いことを聞きますね。

じゃあ」

と彼が話を始めようとしているのを見た。

「しきたりで、こういうのがあるんですよ。

昔、私の地元の方で雨が降らない時期がありまして、

その生贄として、村の子供たち数人を生贄にして雨が降ったって。

そこはもう名前もついて、そういった背景もあり、心霊スポットになったんですよ。

それからですね、度胸試しでその場所に行くような若い人も出てきました。

そこでですね、地域の人たちがそのイメージを取り払うかのようにひまわりの種を埋めて、ひまわり畑にしようとしたんです。「大きく育て」「大きく育て」と言いながら。

そう、観光地化すればお金も入ってくるでしょ？

そんな風に計画が進められていたんですが、それも約半年すると頓挫するように計画自体が消えました。何故だかわかりますか？」

私も妻も同様、何も答えられずにいる。彼がその勢いのまま口を開いた。

「どうも大きくなったひまわりの茶色の部分、管状花の場所が人の顔に見えてしまうということが起きて、なくなったそうです」そんな話を何故こんな場所でと思いました。

続けて彼が言いました。

それ以来私の地元では大きく育てという言葉に過剰反応を起こすようになりました。

よくは使わないけどもしかしたら使うタイミングがあるかもしれないのが怖いすよね。

先日実家に帰って、親族が集まった時に姪っ子に言っちゃったんですよ。

大きく育ったなって。本当に何気なくいってしまったんですが。

それから面々の表情は一変。自分もタブーに触れてしまったとは思いましたが。

今ここに親族からそれ以降で貰ったひまわりの種があるんですけど、どうですか？庭にひまわり。ほら、両手じゃ持てないほどの量がありますから。庭に埋めてください。

大きく育ちますよ」