人間の脳という、最も身近で、最も謎に満ちた存在を題材にしたSFホラーです。
私たちは生きていく上で、たくさんのものを詳しく知らないまま受け入れているはず。身近なところでは、mRNAワクチンという予後などのよくわかっていないものを多くの人が接種しました。
それは、黙って受け入れるべきものなのか、世間で言われていることを鵜呑みにすべきものなのか、疑問を持つべきものなのか……。
本作の主人公は高齢のご婦人で、旦那さんが最先端医療『脳インプラント』の移植を受けたばかり。主な登場人物は他に、その娘さんと、ヘルパーさんです。
小さな病室を舞台に、彼らの会話や淡々とした描写で物語が進んでいくのですが、それぞれの人物の描き分けというか、役割のようなものがはっきりとしていて、短編らしい読みやすさがあります。
ストーリーも、明らかな怪奇現象が起こるという類のホラーではなく、序盤で示唆される疑惑へ向けてじわじわと不安が煽られていく感じで「実態のよくわからないものこそ恐怖」というホラーの核心的なところが面白かったです。