百合とは

晴好雨奇

本文


百合、その清冽にして、百も出逢うという神秘の如き呼称。男と女の世俗的な関係性を排し、ただひたすらに女性同士の、魂と肉体の秘めやかなる交歓を描く。


この世界に咲き誇る花は、ただ可憐なだけではない。そこには、ガラス細工の如き脆さと、鋼の如き強固な意志が同居している。


少女たちは、互いを映す鏡像として、互いの内に自己の存在を発見し、欠落した部分を埋めようとする。


この行為こそが、すでに純粋なる「美」であり、同時に、この世の常識という名の牢獄から、自らを解き放とうとする、一種の殉教なのである。



百合小説の核心は、性愛そのものにあるのではない。


それは、性愛に至るまでの、張り詰めた糸のような緊張感と、一瞬の接触がもたらす、ほとばしる官能にある。


指先が触れ合う一瞬の、宇宙が生まれるかのような震え。視線が交錯した刹那に、互いの魂の奥底まで見透かされてしまうような、裸にされた感覚。


それは、肉体の最奥に隠された、最も秘めやかな場所への侵入であり、そして、互いの存在を、身体ごと、精神ごと、強引に奪い合う、甘美なる戦慄である。


この官能は、単なる肉欲ではない。それは、魂が魂を求め、自己を相手の中に埋没させようとする、永遠の憧憬に突き動かされた行為である。


百合の物語にしばしば登場する、年上の女性に対する年下の女性の、崇拝にも似た感情は、まさにこの憧憬の最も純粋な形である。


それは、愛という言葉では言い尽くせぬ、美への渇望であり、自己の不完全性を補ってくれる、完璧な存在への祈りにも似た感情なのだ。


百合の世界に咲く花は、決して永遠に咲き誇ることはないかもしれない。しかし、その命を、烈火の如く燃やし尽くすからこそ、その美しさは、読者の魂に深く刻み込まれる。


百合って素晴らしいと思いませんか、




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

百合とは 晴好雨奇 @claudius64ro

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ