📘第18話 ふたりで過ごす、音楽のある時間

杉見未希

第1話ふたりで過ごす音楽のある世界

拓真さんの部屋に入るのは、今日がはじめてだった。

玄関から続く廊下は静かで、リビングに入ると、窓の外に揺れるカーテンと、ひとつひとつ丁寧に並んだレコードが目に入った。


「どうぞ、座って」

そう言って差し出されたソファの端に腰を下ろすと、胸のあたりがふわっと緊張でくすぐったくなる。


けれど、拓真さんがレコードプレーヤーに針を落とした瞬間──

静かなピアノの旋律が、部屋の空気をやさしく変えていった。


「……この音、すごく落ち着くね」

わたしの声も、自然といつもより柔らかくなる。


「そう言ってもらえると嬉しいよ。僕、音楽って“ひとりで聴くもの”だと思ってたんだ」

「わたし……音に疲れることもあるけど、こういう音なら、ずっと聴いていたくなる」


ちいさな本棚の端に、昔のCDやカセットが並んでいるのが見えた。

「でもね、全部の音が苦手なわけじゃないの。小さな音でも、優しい音は……ちゃんと好き」

「うん。わかる気がするよ」


拓真さんがそう言ってくれたことが、なんだかすごく嬉しくて、心の奥があたたかくなった。


静かに流れる音楽の中で、言葉よりも確かなものが、この部屋にはあった。


この物語が、あなたの“静かな好き”と出会えますように。

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