夢の記憶

みよしじゅんいち

海を汚すな

 砂浜でごみを集めている。白いビニール袋がいくつも一杯になる。大きな流木を抱えている者もいる。僕はごみの集積場まで錆びついた廃タイヤを転がしていく。誰がこんなに海を汚してしまったのか。空き缶を握った友人が憤っている。これだけごみが集まると、このごみで何かを作れるかもしれないね。そうだイカダを作らないかと誰かが言う。「海を汚すな」と書いた旗を立てるんだ。それで日本を一周する。それはいい、おもしろそうだと賛同者が五人ほど集まって、みんな無心にイカダを作り始める。僕が白いビニール袋にマジックで文字を書く。芯になるのは流木と廃タイヤ。その回りにビニールひもでぐるぐる巻きにしてあらゆるごみを片っ端から固定していく。ついにイカダは完成した。無骨な形状が夕陽に照らされて迫力がある。マストの先に「海を汚すな」の旗が潮風に翻って格好がいい。ここにいるみんなが乗れそうだ。出航は明日の朝にしようと言って解散する。

 昨日の疲れが出たのだろう。目が覚めると、すっかり寝坊してしまっていた。大慌てで自転車を走らせたが、すでに出発してしまった後なのか砂浜には見送りの人垣があるばかりだった。約束の時間はとうに過ぎている。その人垣の眺めている方、海に向かって目を凝らす。ちょうど防波堤の向こうにイカダが消えようとしていた。僕は走る。そして、声の限りに待ってくれと叫ぶ。横っ腹が痛い。向こうも僕の姿に気がついたらしい。こちらに手を振って飛び乗れと叫んでいる。防波堤の壁をよじ登り、全速力の助走をつけてその突端からジャンプする。宙を舞った僕の身体が見事イカダに着地を決める。と思った瞬間、命中した衝撃でマストがへし折れて、イカダが転覆、すべてが分解四散する。みんなも海に投げ出される。海面が元イカダであるところのごみでいっぱいになる。僕は打撲による身体の痛みで悶絶し、海の水を飲んで溺れそうになる。息も絶え絶えに助けを求めると、さっきまで見送っていた人たちが防波堤に並んでいる。そして、海を汚すなと僕たちのことをののしる。

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夢の記憶 みよしじゅんいち @nosiika

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