大学生のころはブンガク青年だったのだが、文芸の創作からは20年くらい遠ざかっていた。ひょんなことで鯵坂もっちょさんに誘われて小説を書いてみたら、我ながら、けっこう書けて楽しくなってしまった。どんな感じで書いたのだったかメモしておきたい。
紹介文のところ、また、物語の末尾に記載があるように、
>この話は、お題を決めて複数人で小説を書く会「小説を書くやつ」で決まった
>テーマに則って書かれたものです。
> 第1回のテーマは、ランダムで出てきた3つの四字熟語
>「高校入試・硝煙弾雨・他人行儀」となります。
ということで、このテーマが設定されて1週間ほどで(がんばって)書いた話である。ランダム要素は十分だったのだが、そのとき読んでいた辻征夫「ぼくたちの(俎板のような)拳銃」という小説のテキトーに目にとまった一文「夏休みの少し前だった」から書き始めてみた。夏に夏の話を書くというのも、なかなかよい効果を上げてくれた気がする。いろんな夏の記号が繋がって、物語の空気を作ってくれた。
フィクションにどうやってリアリティを出すか。実話成分を入れ込もうと思った。「硝煙弾雨」から連想した、祖父の背中の弾丸。「高校入試」で連想した、自分の頭を殴った試験勉強。この2つは実話だった。どうやって背中に弾丸が埋まったのかとかはよく知らなかったけれど。とにかく、この2つを固定するということを最初に決めてしまった。
もうひとつの四字熟語「他人行儀」の扱いが難しかった。構想段階で考えていたのは次のような事だった。他人行儀ということは、(主人公か主要な登場人物が)第三者に対して他人を演じているのではないか。なぜそうする必要があったのか。知り合いであると悟られたくなかったのだろうか。その辺りを掘り下げて行ったところ、なにかのはずみで恋愛小説になってしまった。でき上った小説の中では、悟られたくないから他人行儀だったのかというと、微妙にその構想の名残はあるものの、そういう訳でもなさそうな感じに落ち着いている。作中人物が作者の思い通りに動いてくれないというのは、なるほどこういうことかと感じることができた。
完成した小説を分析してみると、2つの話(淡い謎のようなもの)が並行して進んでいて、それが墓参りで2つとも解決するという構造になっている。書いている途中は、あーでもないこーでもないと、どんな話になるかフワフワしていたのだが、ここが決まった段階で、一応ひとつの話になったかなという感じがした。
1志望校のすれ違いがなぜ起きたのか
お互い相手を追いかけていた(みたいだ。主人公は高村のことが好きだったが、じつは両思いだったのかもしれないという可能性に気づく)。
2祖父の背中の弾丸はなぜ埋まったのか
戦地で仲間をかばったときに負傷した(祖父のことはよく分からなかったけど、けっこういい奴だったのかもしれないと分かる)。
その他の要素がどうしてこうなったのかはよく分からないのだが、炎色反応のこととかが上手く回収できてよかったなと思った。作者の祖父の火葬でも鉛玉は見つからなかったのだが、小説を書くまでは単に溶けたんだろうなとだけ思っていた。青白く光っていたかもしれないと思えただけでも小説を書いた意味があったと思う。
もうひとつ悩んだのは、登場人物の名前だった。高村という苗字は、高校時代の恩師の名前を並べ替えて作ったのだが、その他をどうするか。途中まではもっとテキトーな名前がついていた。読んだ人が気付いたかどうか分からないけれど、百人一首の括りにしてみようというアイデアを思いついて、ようやくいまの名前に落ち着くことになった(あだち充「タッチ」の登場人物の名前が戦国武将から取られているようなものだ)。小野と高村は小野篁(おののたかむら)。八十島とか海之原とかの高校の名前は本題とはあまり関係がないけれども「わたの原八十島(やそしま)かけて漕ぎ出でぬと 人には告げよ海人(あま)の釣り舟」という小野篁の歌から取った。そうしてみると高校での小野の寂しそうな様子は少し島流しの風情があるかもしれない。とくに関係はないけれど、タイトルはさだまさしの歌「蝉時雨」を意識はしていた。藤沢周平の「蝉しぐれ」ではない。
と、いう訳で、あまり他人の参考にはならないかもしれないが、こんな感じでこの小説はできたのであった。楽しんで書いたし、みなさんから好意的な感想を頂いて、お調子者の作者は大いに調子に乗っているところである。
次回作の発表は9月下旬の予定。どうぞ、お楽しみに!