夜明けまでの余白
美和 さくら
ある飲み過ぎた日のこと
少し飲みすぎる予感は、はじめからしていた。気がつくと、男がわたしのベッドの上にいた。顔は知らないはずなのに、昔から知っているような気がする。彼は薄暗い部屋で、わたしの目を真っ直ぐに見つめ、「いやなら、やめる」と囁いた。今さらそんなことを言われても、もう遅いのに。
「どうせ、こういうことだと思っていたもの。」
わたしは穏やかに本音を放った。タカヒロがわたしのことを好いていることくらい、言葉にされなくてもわかっていた。彼は返事をすることなく、何度もわたしにキスをする。それは重ね合わせるというより、ただ押し付けられるような、乱暴なキスだった。
彼の夢中な様子に、わたしは自分のしていることの無様さをまざまざと感じる。わたしも彼と同じくらい、必死に愛されようとしている。
いつになっても変わらない部分と、それに気づいて傷ついてしまう部分。その矛盾が、ブラックホールのようになってわたしを吸い込んでいく。ずっと前から、何かに捕まったり、飲み込まれたりすることを拒否してきたつもりだったのに。
彼でなくてもいいのだ、と抱きしめられながら考える。でも、いま、こうして腕の中にいるわたしは、他の誰にすがりつくことができるだろう?
この瞬間、わたしには彼しかいない。いつも優しくわたしの体に触れていた彼の指は、胸を、腰を、太腿を伝って、わたしのいちばん嫌いなものに変わっていく。
それでも、彼の手に安心しているわたしがいる。お互いの息が荒くなり、彼の指先がわたしの一番好きな場所、一番嫌いな場所に触れる。わたしは、ただ彼の好きにさせるしかなかった。快楽に身を任せるしかなかった。
彼はわたしを優しく受け入れた。
ことは思ったよりも早く終わった。わたしの息はまだ荒かった。
いつものように、毛布にくるまって、落ち着くまで泣くより他に、このやり場のない感情をどうすればいいのかわからない。
夜明けまでの余白 美和 さくら @Thukiyomi_kukuri
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