君と夏の終わり、浪漫の夢 後編
堤防に並んだ火薬の筒が、夜の潮風に揺れている。
ロジーが最後のチェックを終えると、ふっと笑みを浮かべた。
「準備完了……あとは、来るかどうかだね」
美波は少し離れた場所で、そわそわと夜道を見つめている。
愛と桜が両隣で寄り添う。
「本当に来てくれると思いますか?」
美波の声は、少し震えていた。
「絶対来るって。だって、美波ちゃんの想い、ちゃんと伝えたじゃん」
桜が胸を張ると、美波は小さくうなずいた。
――そのとき。
「おーい、美波!」
暗闇から声が飛び、長身の男子が姿を現した。笑うと人懐っこいえくぼが浮かぶ。
美波の胸は一気に高鳴る。ずっと想い続けてきた相手だった。
「ほんとに……来てくれたんだ」
声が震える。手が自然に小さく握りしめられた。
⸻
「じゃあ、始めるぞ!」
踊留の号令とともに、導火線に火が走る。
シュボッ、ドン――!
赤い光が夜空に花を咲かせた。
続けて青、緑、金色の光が、手作りの不格好な花火を彩る。
でもそのどれもが、温かく、心に響く光だった。
彼の瞳にも、確かに光が映っていた。
美波は深呼吸をし、震える手をぎゅっと握る。
「ねぇ……少し、話せる?」
花火の光に照らされ、二人は堤防の端に並んだ。
胸の奥が、嵐のように波打つ。
でも、この瞬間のために、すべて頑張ってきた――。
「私……ずっと、あなたのことが好きでした」
言葉が夜空に吸い込まれる。花火の音にも負けない、真っ直ぐな声だった。
沈黙。
彼は少し困ったように笑い、視線を夜空に逸らす。
「……ありがとう、美波。そう言ってもらえるの、本当に嬉しい」
一呼吸おき、真剣な顔になる。
「でも、ごめん。今は恋愛に気持ちを向けられないんだ。勉強も部活も精一杯で……正直、余裕がない」
美波の胸がぎゅっと締めつけられる。
拒絶ではない。けれど、手を取ってもらえる未来は、まだ遠い。
「そっか……うん、わかった。聞いてくれてありがとう」
声が震えるのを、必死で抑えた。
⸻
「美波ちゃん……」
愛と桜が駆け寄ろうとするが、ロジーが静かに手を挙げた。
「今は……彼女に任せよう」
美波は唇を噛みしめ、涙をこらえながらも笑顔を作る。
「そっか……うん、わかった。聞いてくれてありがとう」
彼は少し寂しそうに頷き、夜の闇に消えていった。
美波はその背中を見送りながら、肩を震わせた。
⸻
「美波!」
桜が駆け寄り、勢いよく抱きしめる。
「泣いていいんだよ!」
愛もそっと肩に手を置く。
「想いを言えたことが、もうすごいことだから」
踊留が口を開いた。
「フラれたって関係ねぇ。次だ、次! 花火なんざ、一発で終わりじゃねえだろ?」
ロジーも笑う。
「そうそう。僕ら、また作ればいい。今度はもっと大きなやつをね」
栞は黙って、美波の手をそっと握った。
その温もりに、美波はようやく息をついた。
⸻
「……ありがと、みんな」
涙をぬぐい、真っ直ぐ空を見上げる。
最後の一発が夜空を裂き、闇に大輪の光が咲き、やがて儚く散っていく。
美波の胸に、切なさと希望が入り混じる。
「今回ダメでも、私……諦めない。
好きって気持ちは、花火みたいに散って終わりじゃないから」
その言葉に、仲間たちは笑顔でうなずいた。
夜空は暗闇に戻っても、心の中には確かな光が残った。
――夏の夜、僕たちの確鳴は、静かに、でも確実に咲き続けていた。
確鳴浪漫〈カクメイロマン〉 はっけよいのこっ太郎 @hakkeyoi_nokottalow
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