41. 違法闘技場 - かんしゃく玉
落としてしまった
警備兵に、魔法使いっぽいやつもいるな。
考えろ、スピーディーに!
ずっと考えていても、状況は悪くなる一方だ。
「ネズミは姿を消しておる。いぶし玉を使え!」
杖を持った男が叫んだ。金ぴかに宝石があしらわれた杖、たぶんこいつが支配人だろう。
そして、支配人は部屋の外へ出る。
いぶし玉ってのが何かは知らないけど、名前から想像すると、魔法で姿を消した相手を探し出す効果を持ったものかな。みんな、部屋の外に出ていくし。
それなら、こっちも魔法アイテムの出番だ!
俺は机の陰に隠れて、「かんしゃく玉」を投げつけた。
――ドォォン! パラパラパラ。
これは、完全に目くらまし用のアイテム。
派手な音と風はすごいけど、殺傷能力はほぼゼロ。ただし、踏むと痛い三角形の
もうもうと灰色の煙が立ち込める中、俺はガバッと窓を開けた。
ここは3階。でこぼこも多いから、怖いけど、降りられなくはなさそう。
だけど、それはきっと、誰でも考える。
だから俺は、屋根の上へ登っていく。
(アレック様? 大丈夫ですか?)
セーラの通信に「音だけ、平気」と短く答えた俺は、ヤモリみたいに壁にしがみつく。
屋根の返しのところが、マジできつい。腕の筋肉が破裂しそう……!
「外へ逃げたぞ! 庭に、警備兵を配置しろ!」
ふふふ、存分に庭を探すがいいさ。
おっさんと合流さえできれば、警備兵なんて相手にもならないから。
きっとね。
だけど、神様ってのはいつもにこにこ微笑んでくれる存在じゃないみたいだ。
腕はぷるぷる、足はぷらぷら。
そんな俺の旅ポケットから、また
もちろん、それはすぐに気づかれた。
「上だ! おい誰か、いぶし玉を投げろ」
くそっ。
このままぶら下がっていても、いつかは落下する。
助けを期待するな。自分で、自分を救うんだ!
俺は、屋根のでっぱりの、ささくれた部分を、ぐっと握りしめた。
赤い血がにじむ。そして、血は炎へと変わる。
「我が意に
少しだけでいい、お前の翼を、俺に貸してくれ!」
白い炎の翼は、左右に燃え広がった。
ほんの、一瞬。
俺の体は軽くなって……
緊張が解けるとともに、召喚術もほどけ、白い炎は霧散していく。
気合いを入れなおし、立ち上がる俺。
数本ある煙突の、どれかに潜り込むのがいいだろう。プライベートスペースのある東側は、比較的警備が緩いはずだ。そこへ……。
――パァァンっ!
体のあちこちに、衝撃。俺に、何かがぶつかって爆発した?
痛っ。まずい、顔とか腕とか、血が出てる。
「命中した。賊は、あそこだ!」
俺の周りに散らばる、灰色のボールみたいなもの。そのいくつかが俺にぶつかって、爆発を起こしたらしい。
俺にぶつかったボールは、ぐにゃりと灰色の液体に変わって……その液体が触れが箇所が少しずつ、俺の本来の色を暴き出していく。
透明化の魔法が、解除されてしまった!
俺の姿は、ほとんど丸見え。拭いても取れない。これも、魔法アイテムか。
そこへ、警備兵と、魔法使いに守られた支配人が登ってくる。
「ん? こいつ。今日来た貴族令嬢の、付き人ではないか。ふん、あの小娘もグルというわけか」
にたり、と支配人は笑った。
人を見下すことに慣れた、不愉快な笑み。
俺は、通信を起動した。
「セーラ、逃げろ。俺の正体が、バレた」
(アレック様!?)
セーラの通信は無視して、俺は、おっさんに頼む。
「おっさん。セーラを、守ってくれるか」
(あぁ、分かってるよ。だけど、アレック、お前はどうする?)
「俺は、証拠を持って逃げ回る。屋敷の外で合流しよう」
俺は、通信を切った。
ケガは痛いし、
ここが、スキル「逃げ足Lv.2」の見せどころさ。
冬の乾いた風が、ぼろきれになった俺の衣服をはためかせた。
屋根の上の追いかけっこ。
逃げ切ってみせるぜ!
✦✦✦ Next Ochidan's Time ✦✦✦
アレックは、証拠を守り抜けるか!?
そして、おっさんはどうやってセーラを救うのか!
クリスマスSSは間に合いませんでしたが、まじめな冒険短編書いています。
近日公開いたします!
おちダン!〜おちこぼれ王子、ダンジョンで死にかけたら規格外の仲間に拾われた 路地猫みのる @minoru0302
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