望夢
風馬
第1話
彼は、生まれつき好奇心の塊のような男だった。
子供のころは、裏山に隠された祠を探しに行き、青年期には行き当たりばったりで旅に出た。大人になってからも、未知への欲望は衰えず、いつしかその矛先は「酒」という底なしの世界に向かってしまった。
飲めば飲むほど広がる陶酔と幻覚。そのうち酒なしでは一歩も動けない体となり、家族や友人を心配させ、ついには三か月の入院治療を余儀なくされた。
退院後、彼は奇跡のように一年間、酒を断った。最初の数か月は地獄のように苦しかったが、やがて体調は落ち着き、顔色も戻り、彼自身も「まだやり直せる」と思えるようになった。
――だがある晩、体が鉛のように重く、息が乱れる夜が訪れる。
その夢の中で、彼は不思議な老人と出会った。深い皺を刻んだ顔、白髪を肩に垂らし、どこか人外の気配をまとっている。老人はゆっくりと告げた。
「お前は望めば、どんな夢でも見られる。ただし、一つだけ禁じよう。自分の死後だけは決して覗いてはならん」
目覚めたとき、彼はそれをただの悪夢だと思った。しかし、その夜から不思議な体験が始まったのだ。
ベッドに横たわる前に「見たい夢」を思い描くと、必ずその夢が現れる。
ある夜は、美しい女たちと寝食を共にする桃源郷の夢。
またある夜は、豪邸に住み、札束を数える富豪の夢。
現実では到底叶わぬ幻想が、眠るたびに男を甘やかした。
数か月、その夢の遊戯は続いた。だが、体調は日ごとに悪化していく。胸は締めつけられ、咳は止まらず、歩けばすぐに息切れした。ある夜、彼は心の奥底から願った。
――大切な人たちに別れを告げたい。
夢の中、彼は両親と兄弟、そして友人の前に立ち、一人ひとりに感謝を伝えた。涙を流し、手を握り、別れを告げる。目覚めたとき、胸の奥に温かな余韻と冷たい予感が同時に残った。
その翌晩だった。
「死後を見てはならぬ」――あの老人の言葉を思い出しながらも、彼は抑えきれぬ衝動に駆られた。
もし、自分が死んだあとに世界はどうなるのか。家族は悲しむのか、それとも忘れるのか。好奇心が、禁忌を破らせたのだ。
眠りに落ちた瞬間、夢は彼を未来へと投げ出した。
そこには、喪服をまとった親族や友人たちがいた。彼らは一様にうつむき、誰かがつぶやく。
――「やっぱり最後は酒だったな」
彼の耳に突き刺さる言葉。
棺の中には、青白い顔で横たわる自分がいた。手には空になった酒瓶が握られている。
飛び起きた彼は、心臓の鼓動が破裂しそうなほど早くなっているのを感じた。冷たい汗が全身を濡らしていた。
あの日から、男の心は夢に囚われ続けた。
「いつ飲んでしまうのか」
「本当に酒に手を伸ばすのか」
彼は一日中おびえ、酒瓶を見かけるたびに震え、眠ることさえ恐れるようになった。
だが時間は無情に過ぎ、体は限界に近づいていた。食欲はなく、歩けばふらつき、呼吸は浅くなるばかり。
そしてその日、ついに床に臥せた。
家族の声も、友人の励ましも、遠く霞んでいく。
最後の瞬間、彼の脳裏には、あの夢がよぎった。
――「酒で死ぬ」と言われた夢。
けれど、口は乾き、胃袋は静まり返り、周りには酒瓶など一つもない。
――あれは、ただの夢だったのだ。
気づいた途端、恐怖は消えた。
彼はわずかに笑みを浮かべ、静かに瞼を閉じた。
その顔は、苦悩から解き放たれた安らぎに満ちていた。
望んだ夢に翻弄され、夢に救われ、彼はようやく長い旅路を終えたのだった。
※この小説は、ChatGPTにより作成されています。
望夢 風馬 @pervect0731
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