よくある原理の瞬間移動装置

五來 小真

よくある原理の瞬間移動装置

 瞬間移動装置を発明した。

 原理はよくあるタイプのもので、人間を情報化して別のところへ飛ばす装置だ。


 ——早速実験してみる。

 こういうのは、誰かに依頼してもダメだ。

 リスクが大きい。

 自分でやるしかない。


「向こうに無事に着いたら電話するから。―もしも失敗したら、資産の場所は覚えてるよな?」

 妻の肯定を見て、装置を作動させた。

 情報化の失敗は、そのまま死を意味する。


 けたたましい作動音と共に、強烈なフラッシュが焚かれた。

 

 ……。

 

 私は呆然と立ち尽くしていた。

 ——実験は失敗だ。

 これで私は向こうに移動しているはずだった。

 しかし私は移動していない。


「何が悪かったんだ——!」

「生きているんだもの、次があるわよ。―あら?」 

 私を慰めようとした妻のスマホに、着信音が鳴り響いた。

 こんな時に、間の悪いやつがいたもんだ。


「……あなた、これどういうこと―?」


 スマホには、私の名前が出ていた。

 妻は通話の音がこちらにも聞こえるよう切り替え、電話に出た。


「やったぞ、実験は成功だ。少しこちらを楽しんだら帰る」


 言うことを言うと、さっさと電話を切ってしまった。

 なんとせっかちな奴だ。

 あの声には聞き覚えがある。

 実験の録画をチェックした時に聞いた自分の声だ。

 なぜ私がもう一人いる?


 ――あ。


「わかったぞ、多分プログラムのミスだ。多分、データを取り込んだ後、元の情報――つまり私を消すプロセスに移行できてなかったんだ」

「あなた、それって――」

「後にしてくれないか? 向こうの私が帰ってくれば聞いてくれるさ」


 あわてて機械のプログラムをチェックする。

 予想通りバグが見つかった。


「あったあった。こいつさえ修正すれば――」

「ねえ、あなた――」


 早速修正する。


 難しい修正ではなかった。

 ケアレスミスだ。

 修正がすぐに終わり、さっさと再起動させた。


 これで瞬間移動装置が完璧になる。

 装置はすんなり作動し、私は足元から分解されだした。


 そこではたと気づいた。

 元のデータを消すプログラムをオフにする機能を付ければ、クローン装置としても使えるのでは?

 なんということだ。

 それだけで発明品が2つになる。

 この発明品の後に誰かが作るかも知れないが、私が発明してるのに功績は別の人間とは……。

 ——向こうの私がこのことに気づけば良いが無理だろう。

 向こうの私は、こっちの失敗を知らないのだから。


「そもそも、あなたは消える必要があったの?」

 不意に聞かされた妻の言葉に、雷に打たれた衝撃を受ける。


 全くもって消える必要はなかった。

 せめて頭から分解するようにしておけば、妻に恥で赤くなった顔を見られずに済んだのに。

 そう考える間にもプロセスは進み、そして全ての私が消え去った。




「——で、なんであなたが二人いるの?」

 数日して、私は家に戻った。

 ——向こうの私と合流して。

 フローをスキップするのを忘れた私は、そのまま向こうへ転送されてしまったのだった。

 もちろん失敗の記憶も持ったままで。

「どっちの私が良い? 今度こそ消し——」

 言いかけた私の言葉を妻は遮った。

「まずは、わたしが増えましょう——」


 ——なるほど、それだと消える必要はないかも知れない。


 <了>

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よくある原理の瞬間移動装置 五來 小真 @doug-bobson

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