推しはないけど好きはある

snowdrop

ちょっと腑に落ちた夜

 先日の深夜、カクヨム甲子園の応募作品を読んで感想を書きながら動画サイトを流し見していたとき、岡田斗司夫氏――かつて「オタキング」と呼ばれた元ガイナックス社長で、現在はYouTubeで歯に衣着せぬ発言を続ける論客――のショート動画が流れてきた。

 話している内容は「推し活」。

 最近では誰もが口にするようになった言葉だ。けれど正直、推しもいないし、そんな活動をしたことすらない。だから本質について考えてこなかった。

 ところが岡田さんは、最初からものすごく直球で切り込んできた。

「そもそも推しというのが他人から見たら、はっきりいってオ◯ニーのネタと同じなんですよ」

 イヤホンから流れてきた言葉に、思わず画面を覗き込む。笑えるような、耳が痛いような比喩だ。

 岡田氏が言いたいのはこうだ。

 推し活は当人にとっては心の支えだし純粋に楽しめる行為だけれど、外から見れば「精神的な自慰」と変わらない。肉体か精神かの違いにすぎず、結局は自己欲求の処理に近いのだ。

「推しをオープンに語る風潮」があるのは岡田氏曰く、「この世の中が大変態時代になったから」であって、まともに考えれば他人に見せるようなものではないのだと断言する。

 衝撃的だけれど、妙に説得力があった。

 さらに岡田氏は切り捨てる。

「推し活っていうのは、はっきりいってみっともないもんなんですよ」

 本人のなかではプラトニックな愛情で「恋愛とは違う」と言い張る人もいる。でも岡田氏に言わせれば、他人から見ればその区別は成立しない。

 ここで飛び出してきた喩えが過激だった。

「母親に自分のオ◯ニーのネタを見せて『これ好きなんだ、分かって!』っていうのと同じ」

 つまり、「推しを理解してほしい」「一緒に好きになってほしい」と相手に迫ること自体が異常、ということだ。

 他人には伝わらないし、見せた瞬間に「みっともない姿」を晒してしまう。

 岡田氏の結論はシンプルだった。

 推し活はしてもいい。でも「徹底的に隠してやる」のが一番健全で安全。

 ここで面白いのは、「オタク」と「推し」をはっきり区別している点だ。

「オタクっていうのは作品とか監督で系統的に見る。でも推しっていうのは違う。数とか回数を見ればそれでいい」

 オタクは作品の歴史的な文脈や背景を調べ、ある意味「研究」する人たちだった。ところが推し活は、そういう知識体系はほとんど必要ない。くり返し鑑賞や消費回数そのものが愛の証明になる。

 その違いの背景には「今の若者は金も時間もない」現実がある。昔のようにすべてのアニメや特撮を追いかけることは不可能となり、結果「手軽に成立する推し活」に人は流れていく。

 これは単なる趣味の変遷ではなく、時代構造を映す話だと感じた。

 では、なぜ人は推し活に夢中になるのか。

 岡田氏は「承認欲求」という言葉をつかって、正体を説明する。

「推しっていうのは、自分を褒めることができないから、みんなが安全に好きになれそうなものに乗っかって押す。オリンピックのときに『日本万歳!』って言ってる人と同じ」

 要するに、人は自分に自信を持てないとき、すでに評価が固まり人気のある存在に乗っかることで安心を得ようとする。「これを推している自分は間違っていない」と思いたいのだ。

 その推しを通して自分自身を肯定する。これこそが、岡田氏が見抜いた「推し活の本質」だった。

 話をまとめれば推し活は「精神的な自慰」に近く、外から見ればみっともなく恥ずかしいものに映る。他人に理解を求めるのは筋違いで、隠してこそ健全だという。オタク文化とは異なり、知識ではなく「数」や「回数」が愛情の証明になる。その正体は承認欲求、つまり自分を肯定するための装置なのだ。

 世の中には「推しを全開で語るのがいいこと」と思う風潮があるらしい。

 でも岡田氏は逆に、「それは見せちゃいけない。隠したほうが幸せだ」と語る。

 言葉はきわめて辛辣だったが、聞いているうちに「たしかにそうかもしれない」と思わされる部分も多かった。

 推し活とは個人の密やかな楽しみであって、他人に押しつけるものではないのだろう。

 私自身に「推し」はいない。

 けれど、好きはある。

 作品をじっくり読み、感想として言葉に残すことだ。

 イヤホンを外して動画を閉じ、モニターに映る文章へ視線を戻す。綴られた文字を目で追えば、胸の奥が静かに温まっていく。

 私にとっての好きは、この時間の中にある。

 

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