静かな店に流れる、会話の妙味。
- ★★★ Excellent!!!
<来店記録八月十七日」を読んでのレビューです>
ある夏の夕方の情景から始まり、少年と小説家の会話が中心に描かれています。登場人物の動作や発話は淡々としていながら、その背景に温度の違う感情が漂っているのが印象的でした。静かな筆致の中に、煙草の匂い、コーヒーの苦味、少年の無邪気さといった質感が確かに感じられるのです。
印象的だったのは、
「……煙草だけでも最悪だけどコーヒーも飲むようになると、そうだな、口からウンコのにおいがするよ」
という一文。
露悪的ともいえる発話ですが、会話の流れに不思議と馴染んでいて、場面全体にユーモラスな現実感を与えていました。この無造作な一言によって、少年の笑いも、空気の変化も自然に伝わってきます。
全体を通して、日常の出来事を少し斜めから切り取る視点に惹かれました。人物の会話がそのまま余韻として残り、最後に残るのは静かな温かさでした。