第6話

「失礼。アメリア・フローレンスさん…でしょうか?」


放課後、授業を終えたアメリア嬢にセレーナと共に声をかけた。

本人に知られず護衛をすることも考えたが、やはり原因究明のためには彼女の協力が必要ということもあり、直接護衛の件を話すことにした。


「はい……。」


呼び止められて振り返る彼女は訝しげにこちらを見ている。

無理もない。彼女から見れば、自分が親しくしている異性の婚約者に、人通りの少ない場所で声をかけられたのだ。


(きっと怖いわよね…。なるべく圧を感じないようにしてあげなくちゃ…。必殺白百合スマイルよ!声は小さく、柔らかく…!私普通にしていると不機嫌で怒っているように見えるから大丈夫かしら…いつもより気をつけてあげないと…。)



ゆるく巻かれたボリュームのあるピンクの髪は頭のサイドで分けられている。

そして黄色いリボンの髪留めが彼女の可憐さをより引き立てている。髪と同じ色の大きく宝石のような瞳は少し濡れていて、警戒心を窺わせながらも、こちらを上目遣いに見る仕草は可愛らしく、庇護欲をそそる。


「そんなに警戒しなくて大丈夫よ。今日はお願いがあって声をかけさせてもらったの。この後少しお時間いいかしら。」


そして、白星の館の裏口を示す地図と時間が書かれた紙を渡す。

裏口からなのは、正面から入ると注目の的になりすぎるためだ。裏口は位置的に学園の外と繋がっているので、生徒には気づかれにくい。


なるべく圧を感じさせないように…言葉は慎重に選んで…などと考えていたせいか、優しく微笑んだつもりでも強い笑顔になってしまったかもしれない。


「………。」


しかし彼女は、未だ警戒するような顔をしつつも、無言でそっと紙を受け取ってくれた。



––––––––––––––––––1時間後。


「失礼します。」

時間通りにコンコンとドアが鳴ると、アメリアが執務室に入ってきた。

レオンが、客用の席に案内すると、彼女は「ありがとうございます。」と淡々と述べ、指定された位置にさっと座った。


「それで…お話とは?」


彼女は、席についてすぐ尋ねてきた。普通風紀委員に呼び出しを食らうなど誰でも怯えて仕方ないところなのに、見た目の幼さからは想像もつかないくらい落ち着き払った凛とした態度でこちらを見据えている。


アメリアの強い語気にこちらの方が緊張してしまいそうになりながらも、私は話を切り出す。


「あ、えっと…実は、先ほども言ったのだけれど、アメリアさんにはお願いがあってここに来てもらったの。最近アメリアさんの周りで妙なことが起きていると、とある筋から相談を受けたのだけどその心当たりはあるかしら…?」


「ハサミが飛んできたり、植木鉢が落ちてきたりしたことでしょうか?」


こちらがもじもじと聞いてしまったせいか、強く冷たい口調で返される。

アメリアの後ろに立っているセレーナの眉がぴくりと動いたのを見た。

マナーに厳しい彼女のことだから、私に対してのアメリアの口調に反応したのだろう。慌てて彼女がこれ以上怒らないように、私の方で話を続ける。


「あ、そうそう、かなり危ない目にあっているようだけれど、まずは怪我などはないかしら…?こちらとしても、我が学院の生徒に危険が及んでいる以上、原因や犯人を探そうと思っているのよね。」


アメリアの反応を伺いつつ話を続ける。


「それでお願いがあるのだけど……アメリアさん、風紀委員にならない?」


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