アンチコミュニケーション
梅田エルマー
アンチコミュニケーション
水筒の蓋を開けた。本体を右手で握り、そのまま右手を縦に180度回した。水筒の中の生卵が、すべて溢れた。
芋虫が降っている。木の上で葉を食べ太りあげ、ある一定の重さに達したものから順に、自重で落ちてしまうのである。私は虫が嫌いだし、阿呆も嫌いだし、阿呆な虫も嫌いだ。だから、芋虫を避けて歩かねばならなかった。
「あいにくの天気ね」
女が言った。女は、芋虫のことを雨だと思っているようだった。
私は、ああ、と言う口の形をした。喉から空気を出すのを忘れたので、女には何も届かなかった。
「映画の真似でもしているの?」
「きみは芋虫が好きなのか?」
「嫌いではないわ。あとそう、阿呆もまずまずよ」
女は、差していた傘のうちテリトリーを左半分に狭め、右半分に私を入れようとした。
「いい、傘もじきに食い尽くされてしまうよ」
「そうかもしれないわね」
女は笑った。何も言わない方がいいと思った時は、笑うようにしているらしかった。
薬の時間が来たので、靴の中からチョコレートを取り出した。
「いい加減、オリジナルのお薬はやめにして、お医者さんに出してもらった薬を飲んだら?」
医者なんて、自分が働いていることを証明するために薬を処方しているに過ぎない。少々高いが、このチョコレートの方がましだ。体内にあってもいいと思える。
水筒を開けた。何も入っていなかった。仕方なく、そのままチョコレートを食べた。
雨が降っていた。
アンチコミュニケーション 梅田エルマー @will_open
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