時代を超える表現

 めちゃめちゃはまった小説家さんと言えば、氷室冴子先生と新井素子先生ですが。

 わたしの文体はほとんど二人に影響されていますし、『今更イケメンにはまった、悪かったな!』は、氷室冴子先生が宝塚にはまった時のファン活動のエッセイが面白すぎたという記憶が潜在的にあったから、書く気になったというところも正直あります。


 そしていま、こうやって話を書くときに思っているのが、タイトルの「時代を超える表現」についての心がけです。


 今は私、異世界ファンタジーしか公開していないのでぴんとこないかもですが……。


 裏では今、現代ファンタジーやっているので、ちょうどこの問題に直面しています。リアルを追求するために、熟知している街でストーリーを展開していますが、街並みをどこまで書いていいのだろうか?とか、連絡するのはLINEでいいのか?とか。街並みは変わりますし、LINEがいつまで連絡アプリとして覇権を取っているのかわかりません。


 そんなときに思い出すのが新井素子先生のあとがきかエッセイで読んだ話です。


 その昔、「一万円札」が登場した際*1、それまでの一番高額な紙幣だった「千円札」の図柄だった聖徳太子が「一万円札」の図柄に移ったので、「日本は一番高額な紙幣の図柄は聖徳太子にするんだ!」と理解して、一万円札のことを「聖徳太子」と表現していたそうなんですが、時代が下り一万円の図案が福沢諭吉に変更*2されることになり、「どうしよう、今まで聖徳太子って書いてしまっているのに!」と困られたそうなんです。


 *1

 これ書くにあたり調べた初代一万円札の発行は、1956年。しかし、新井素子先生の出生は1960年。うーん。実体験のように書かれていた記憶ですが、実体験ではないですね。親から聞いたか、古い紙幣として見たか…そのあたり、ご本人がどう書いていたか、細部は覚えてないです。

 *2

 福沢諭吉版がでたのが、1983年。たしかに、初期の作品がいくつか出ています。


 金融機関に勤めていた親が、バブル期に「五万円札や十万円札の構想がある」*3って言っていたので、もしこの時期に五万円札が発行されたら、それが聖徳太子になったかもしれず、そうなったら新井素子先生の配慮も大当たりだったわけですが、社会情勢的にそれは起こらず、結果として素直に「一万円札」と書いた方がよかった、と言うことになっていますね。


 *3

 個人の話にすぎません。根拠はないです。

 こんな風に書いているYahoo!知恵袋も見つけましたが、こちらもあくまでも個人の感想レベルにすぎないので、うのみにしないでください。

https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q11310852836


 また、初期の作品『ブラック・キャット』が完結したのが、2000年代初頭だったのですが、20年も経ってしまうと、社会が変わって世界が変わってしまって困る、それの代表が携帯電話だ、とも書かれていました。携帯電話がない時代に始まっているので、今ここで携帯電話を出したくないが、もうここまで当たり前の世の中になると出さざるを得ない、と言ってとうとう、携帯電話でやり取りするシーンが描かれました。確かに、実際の時間は20年ぐらいたっていますが、小説の中では数年も経っていないので、その数年の間に突然携帯電話が出てくるのは変かもしれない。

 でも、読者の側も、携帯電話ありきの生活に変わってしまったので、突然発生した携帯電話ですが、わたしは全く気にならず、完結を楽しみました。


 そして、『ブラック・キャット』完結から20年たった今、もう携帯電話ではなくスマートフォンですよね。


 と、現代を書くときには、どこまで時代を超える表現をしていくか、割と問題になる気がします。時代を明言するならよいのですが、「今の皆さんの身の回りの出来事です」のていで書くと、どこまでキャッチアップできる文章にするか。


 ちなみに、新井素子先生がそういうことを意識されたのは、星新一先生の影響だそうです。たしかに星新一先生の時代を感じさせない描写は、今読んでもすごいと思います。だからこその、あれだけのSFが今でも成立するのでしょう。なかなかできないことです。


 異世界ファンタジーをやっていると、そいういうところをごまかせて楽なんだなぁと思いました。


 私はいろいろ悩んだ結果、現代ファンタジーといいつつ……という構造の話なので、時代は明記しないけど「2025年の出来事だから、風俗を書き込んでよし」という方針にすることにしました。時代を越える表現ではないかもしれないけど、今の時分にはそれがベストな対応だと思いました。ばりばり「今」を書き込んでいます。


 でも、こういう配慮が必要なことを知らずに「今」を書き込むのか、知って「今」を書き込むのか、は全く違うと思うので、やはりそういう話を教えてくれた新井素子先生には、尊敬の念を抱かずにはいられないのです。もちろん、その大元の星新一先生にも。


 星新一先生のショートショートはすごく読みやすいので自分も書ける錯覚に陥りがちですけど、絶対難しいです。題名忘れちゃいましたけど、肩にパーソナル秘書ロボットみたいなものをのっけて人とコミュニケーションする話、あれは生成AIに頼り切りになるかもしれない?な今読むと、結構すごい話だよな、と、たまに背筋が寒くなることがあります。


 想像力&創造力の予見性に。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

次の更新予定

毎週 日曜日 08:34 予定は変更される可能性があります

創作する際の、私のバイブル 三木さくら @39change

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ