とても変なアルバム

@Kioh_

『家族のアルバム』

 誰かORGAという団体を知りませんか。

 にさま、うばさま、という神様を知りませんか。

 鬼邑という言葉を知りませんか。邑の漢字は、もしかしたら違ったかもしれません。

 どうか教えてください。


 まず告白しなければいけないのですが、私には、反社会的な嗜好があります。あくまでも妄想の中にとどめておくだけで、行動に移したことは一切ないと誓いますが、穏当な言葉で言えば「子供好き」といえるでしょうか。

 私がその本、写真集を見つけたのは古本屋の片隅でした。秋葉原の、その筋、つまり“子供好き”の間では有名な店です。


『家族のアルバム』


 見たことのない題名だったので、手に取りました。

 前書きには、全国各地の色々な家族の記念写真を集めたとありました。

 あまり興味は持てませんでしたが、紙質からすると80年代の本です。この頃の本は、脇が甘いというか、子供の裸などが堂々と載っている時があります。

 もしかしたら、そういう写真もあるのではないかと期待して、私は本を取りました。


 ページをめくると「誕生日」とありました。

 見開き。左ページに写真が一枚。右ページには、真っ白なページの真ん中に、横書きで、田崎家。田崎美加八才とだけ、ありました。

 写真は、誕生日会のもの。可愛い、目のくりくりした子が、お誕生日の帽子をかぶって、ケーキの蝋燭を吹き消しているというものです。

 特に不自然な、不届きなものはなくて、ちょっとだけ落胆しましたが、見ていて楽しくなるような絵でした。


 女の子。この子が、田崎美加ちゃんでしょうか。可愛いですが、アイドル級とか美少女とかいうほどではなく、本当にどこかの家族写真から引っ張ってきたのでしょう。

 意外と悪くない。値段次第なら、買ってもいいかな、と、思ってページをめくりました。


 次の写真を見て、私は絶句しました。

 美加ちゃんが裸です。お誕生日帽子だけをつけているのが、痛々しさをましています。

 その腕や背中には、幾筋もの青痣がくっきりついています。お腹には、いかがわしい言葉の刺青まで。

 彼女は父親の足下にひざまずいています。

 ありえません。出版できる内容ではありませんし、そもそも完全に犯罪です。


 しばらく考えて、私は気づきました。

 ――そうだ、AI生成だ。

 おそらく最初の写真は本物かもしれません。それを参考にして、AIに二枚目を作らせ、レタッチしたのでしょう。

 それにしても商業で出すのは不可能な大胆な内容ですから、これは多分、同人誌でしょう。

 同人誌といっても、普通の同人印刷所では受け付けてくれないでしょうから、かなりの好事家が、コネを使って作ったのだろうと思います。

 写真の内容がすごかったので、気を取られましたが、右ページには、「わかったかな?」と、こちらをバカにしたような文句があります。


 私は、前の写真を見返してみました。

 あぁ、これは確かに。


 服に覆われていますが、手首のあたりをよく見ると、青痣が見えます。

 蝋燭の火を消すために、身を乗り出したことで、お腹がちょっと見えており、そこには入れ墨の文字が見えていました。

 手がかりは、最初からあったわけです。


 つまり、これは、悪趣味な謎解き本の一種なのでしょう。最初のページを見て、手がかりを探し、何が起きているかを当てる。答えは、めくった次のページ、というわけです。

「わかったかな?」という文字の下に、子供の書いた字で何か書かれています。


「今日は、美加の8才のたんじょうびです。パパは、美加は、もう大人だから、大人の体そうがいっぱいできるねと言いました。わたしは、大きくなりたくないです」

 おそらくは、大人が子供を真似て書いた演出でしょうけれど、ぐっとくるものがありました。


 私は、本を閉じると、レジに向かって料金を支払いました。

 値段は二万円ですが、後悔はありませんでした。


 家に帰って、深呼吸して、鞄を開き、本を取り出します。

 本を傷めないように、ゴム手袋をはめて、ゆっくりとページを開きました。


「わんちゃんと一緒」

 呉実くれみ家。呉実良雄五才。


 今度の写真は、ドッグランというものでしょうか。

 芝生の上に、犬がたくさん走り回っています。

 写真中央で、ビーグル犬の紐を持っているのが、お父さんでしょう。

 呉実良雄君は、お父さんとお母さんの間に立っています。

 いわゆる美少年というか、女の子っぽい顔立ちです。深みのある、思慮深い表情にも見えますが、本の内容からすると、単に虐待の結果、子供らしい明るさを失ってしまっていると考えるのが妥当でしょうか。

 ジャンパーを着て、それでも寒いのか、首のあたりを手で閉じています。


 普通の写真に見えます。

 でも、きっと、どこかに手がかりがあるのでしょう。

 しばらく見ていて、私は気づきました。

 花です。写真の端っこ、犬が来ない人間用の休憩エリアに、花壇があり、チューリップが咲いています。

 チューリップが咲くの確か、5月くらい。

 父親と母親は厚着でも薄着でもないので、わからなかったのですが、これは初夏です。

 良雄君は、なぜジャンパーを着ているのか。なぜ首のあたりに手を置いてるのか。

 虐待跡でしょう。首元の虐待跡といえば、首絞め。

 おそらくは、次のページには、良雄君が首を絞められている写真があるのでは。


 そう考えて、ページをめくります。


 良雄君は、ドッグランの芝生の上で、生まれたままの姿で、四つん這いになっていました。

 良雄君の首元にあるのは……首輪です。

 犬の首輪。その鎖を父親が握っています。さらに良雄君の頭には犬耳がつけられていました。

 鎖を引っ張られているせいか、良雄君は苦しそうです。

 家族の飼い犬であろう、ビーグル犬が良雄君の横に、ちょこっといるのが、場違いなかわいさをかもしていました。


 またしてもやられました。

 ヒントは、ドッグランだったのです。

 良雄君のお父さんは、ドッグランの中で、息子に犬の格好をさせているのです。鬼畜という言葉が、ぴったりくる所業です。

「おとうさん、ぼく、よしおだよ、わんちゃんじゃないよ。わんちゃんいやだよ」

 良雄君のコメントも胸に来ます。

 また、やられました。

「つぎは、かんたんだよ」というコメントを信じて、私はページをめくります。


「海水浴」

 羽良家 羽良ののか 十才。


 波打ち際に並んでいる親子三人の写真。

 女の子、ののかちゃんは、ショートカットの優しそうな子。

 はにかんだ表情で写真に写っています。

 水着は、今となっては古風な、紺色のスクール水着です。

 にぎわっている海水浴場らしく、他にも、様々な水着の男女がいます。

 おかしな点は……すぐに見つかりました。

「つぎはかんたんだよ」と前のページにありました。いや、まさか、しかし。そこまで簡単なはずはない、と、私は思います。

 しばらく悩みましたが、他におかしなところが見つからなかったので、心を決めてページをめくります。


 私が気づいた違和感は、彼女の水着でした。股間の部分に、奇妙な盛り上がりがあったのです。


 詳細の説明は省きます。二枚目の写真では、水着の下に、ある種の道具が入っていたことが明らかになります。

 ののかちゃんは、それを受け入れている様子です。悦楽に片目だけ閉じてるアンバランスさが、なんともいえない色気になっています。

 周りを見ると、相変わらず海水浴客がいて、二人を無視して歩いています。このあたりは、AI画像故の手抜きでしょう。


「クリスマス」

 干刀家 干刀美樹六歳


 普通の家のクリスマス・パーティです。団地なので、ちょっと狭め。テーブルには、リボンをかけた箱が二つ置いてあります。

 女の子、美樹ちゃんは、テーブルに座っています。眼鏡をかけた、垢抜けない子で、目は一重。幸薄い感じの表情です。髪の毛をつかみたくなる顔といいますか。

 美樹ちゃんは、今にも、プレゼントを開けようとしています。その顔は、幸薄いなりに非常に嬉しそうで、幸せいっぱいといった感じです。

 両親は、テーブルについて、美樹ちゃんを見守っています。

 しばらく探しましたが、変な点は見つかりませんでした。まぁ、どうせプレゼントに何か変なもの……おとなのおもちゃとかが入ってるんじゃないかと思いますが……。


 ページをめくると、しゃがんだ美樹ちゃんの苦しそうな顔が目に入りました。


 いや、違います。美樹ちゃんは写真の端っこで、プレゼントを開けています。


 美樹ちゃんと、そっくりの顔の子が、テーブルの下で父親に奉仕しているのです。悲しそうに、辛そうに、上目遣いで父親を見ています。

 あぁそうか。確かにプレゼントは二つありました。最初の写真をよく見ると、箸立てに箸が二本余っています。

 この家族は、四人家族で、美樹ちゃんは双子だったのです。


 つまり、プレゼントを開けているほうは、美樹ちゃんではなく、テーブルの下にいるのが美樹ちゃんだったのでしょう。

 なぜ、双子のうち、一人だけが、こんな虐待を受けているのでしょう。

 ページ右のセリフにはこうありました。

「みきは、おねえちゃんのかげだから、おねえちゃんを、お父さんから、まもります」

 これだけだと、どう考えていいかわかりませんが、この家庭の闇が垣間見えます。


 1枚目の、姉の、幸せいっぱいな顔と、2枚目の美樹ちゃんの、悲しそうな顔の対比が、とても興奮しますよね。


「授業参観」

 馬作家 馬作ゆの九歳


 これはわかりやすいものでした。

 参観日で、ゆのちゃんは、立って、大きな声で教科書を読んでいます。ゆずちゃんは、目のくりくりしたショートカットの女の子で、背は低いですが、運動が得意そうな感じです。

 本来は、きっと明るい子なんでしょうけれど、今のゆのちゃんの顔は、でも、とても辛そうです。汗が流れていて、髪の毛がちょっと張り付いています。


 教室の後ろのほうには、生徒達の保護者がいます。保護者の一人の手に、ライターくらいの大きさの機械が見えます。

 もうわかりますね。リモコンです。


 二枚目のシーンは、ゆのちゃんが、うずくまって、泣いているところです。足下には水たまりができています。

 父親が、慌てた様子でかけつける中、先生は、平然と授業を続けています。


「健康診断」

 砥賀家 砥賀キリコ十三歳


 あとで思い返すと、ここが最初の違和感でした。


 写真は、病院で、健康診断を受けているキリコちゃんです。

 キリコちゃんは、思い切り服をめくって、上半身をさらけだしています。医者は真面目な顔で、聴診器をキリコちゃんに当てています。

 そうそう、昭和の本には、よくこういうシーンがありました。最初は、こういうのがあるかと思って、本を手に取ったんですよね。

 奇妙な点は、というと、よくわかりません。

 医者の聴診器が何かの道具で、キリコちゃんを虐めてるのかと思いましたが、そういう証拠は見つかりませんでした。

 気になるのは、医者の机の上にある、紐?です。組紐というんですか、太い紐がねじられ、編まれています。よく見ると、紐の先端は、両方とも、蛇の頭になっています。

 黒い双頭の蛇。なんでしょう。わかりません。


 次のページを見て、私は、思わず声が出ました。それくらい、どぎつかったのです。

 キリコちゃんは、赤い着物を着て立っています。そのお腹は、着物でも隠せないほどに大きく膨らんでいます。表情は、虚無というのがふさわしいでしょうか。

 例の黒い紐は、キリコちゃんの首にまきついています。


 右ページには、

「かんたんだったね」

「にさま、うばさま、おまもりください」

 とありました。


 私は混乱しました。

 どうやら、この本を作った人は、黒い紐が、ヒントだったと言いたいのでしょう。安産の御守りのようなものでしょうか。

 でも、そんな話は聞いたことがありません。検索しても見当たりませんでした。

 普通は、安産の御守りといえば、戌でしょう。

 なぜ、作者は、そんな、ひねりを入れたのか。


「にさま、うばさま」というのは、蛇の名前でしょうか。


 この時点で、私は、アングラ系の知人に、電話しました。

 本の概要を伝えて、知っているかどうか、そして、黒い紐についても。

 知人は最初、興奮して、自分も知らないが、そんな本を誰かが作ったのなら、アングラで噂になってるだろうから、探してみるといいました。

 ですが、私が黒紐の話をしたら、一瞬、黙りました。


「知ってるのかい?」

「ああいや、よくある話だと思ってね」

「よくある?」

「画像生成AIによくあるノイズだよ。変なものを出力してしまう。ほら、指が六本あるとかよく聞くだろ。最近は、そういうのは少ないらしいが、変なものが出ることは多い。それをAIに修正させたりレタッチしたりするのも大変だから、もう片方にも描いて、怪談風に演出したんだろう」

「……なるほどね」

 言われてみれば納得です。

 私はその後、本の続きを読んでまた連絡するといい、彼は、自分のツテで本について調べてみるといいました。

 今になって思うと、彼が黙ったのは、何か知ってたからではないかと思うのです。その時、聞きただしておけばよかったと思います。


「真夏日」

 須戸家 須戸仁6歳 須戸さな8歳


 なんと言ったらいいのでしょう。ある意味、わかりやすく、ある意味、奇妙な写真でした。

 真夏日で、薄着の姉と弟が、それぞれ、白いアイスキャンディーをしゃぶっている写真。

 それと、姉が、弟のものを優しく、しゃぶっている写真です。

 問題は、一枚目が姉弟の行為で、二枚目が、アイスキャンディーなのです。

 もちろん、単に間違えた、乱丁である可能性もあります。

 ですが。

 根拠はない上で、お話ししますが、何かそうではない感じがするのです。これが正しい順番だと。

 姉が弟のものを口に含むよりも、アイスキャンディーをしゃぶることが異常で、背徳的である世界。

 安産の御守りが黒蛇で、他にも色々な違いがある世界。

 意味の無い妄想と思うかもしれませんが、なんとなく、そんな印象を受けてしまったのです。

 その印象は次の写真を見て、さらに大きくなりました。


「縁結い」

 腎甚家 腎甚知衣戸 伍歳

 母檡家 母檡華華 漆歳


 どう読んだらいいのか、わかりません。ちいこちゃん、かかちゃん、でしょうか。

 とりあえず、そう呼びます。

 最初の写真では、二組の家族?が、見合っています。

 大人たちは、スーツですが、見たこともない、中華風?のお面を被っています。お面は、顔全体を歪めて、笑っている老人の顔に見えないこともありません。

 父親とおぼしき男性二人は、まるでジャンケンをするみたいに、手を出しています。

 ただ、グーでもチョキでもない、変な形の手です。


 どちらがどちらかわかりませんが、母親が、ちいこちゃんとかかちゃんを、前に押し出しています。

 髪が長いほう、仮にちいこちゃんとしましょう。ちいこちゃんは、顔をくしゃくしゃにして、思い切り泣いています。

 髪が短いほう、かかちゃんは、逆に、何か楽しそうに笑っています。笑っているといっても、子供らしい無邪気な笑いとは違って、何か、冷笑のような、大人の雰囲気の笑いです。大人達の仮面の笑いに近いかもしれません。


 さすがにもう、何がなんだかわかりません。普通でないところしかなくて、作者が何を「おかしい」と言いたいのかわからないのです。

 ジャンケンでしょうか、仮面でしょうか、他の何かでしょうか。

 そもそもこの人達は、何をしているのでしょうか。縁結いとは何なのでしょうか。


 私は、ページをめくりました。


 そして拍子抜けしました。

 正直、何か、生け贄の儀式とかで、ちいこちゃんや、かかちゃんが、バラバラになっていてもおかしくないと覚悟していたのです。


 代わりにあったのは、帰って行く両家の姿でした。

 スーツの男女が、ちいこちゃん、かかちゃんと手を繋いで、逆方向に帰って行きます。もう、仮面はしていません。

 ちいこちゃん、かかちゃんも、普通の表情です。ちょっと明るいけど、気持ち悪いじゃなく、もちろん悲鳴でもない。子供らしい顔。

 しばらくして、私は気づきました。

 両親が入れ替わっています。

 最初にちいこちゃんを連れてきた親は、かかちゃんを、

 かかちゃんを連れてきた親は、ちいこちゃんを持ち帰っているようです。


 これが「縁結い」なのでしょうか。

 私は首をひねります。


 子供の言葉は「こんにちは らなようさ」とだけあります。こんにちは、と、らなようさは、違う字体です。


 このあたりから、私の記憶で書くので曖昧になります。

 というのは、ここまではアルバムの内容をメモしていたのですが、この後のメモが残ってないのです。


 名前は読めないものが増えて、聞いたことのない行事も多かったです。「犬割り」「桜つばき」「ひととととと」などがあったと記憶しています。活字も、旧字体や、多分、旧字体ですらないものも増えました。

 『縁結び』のような、よくわからない行事も多かったですが、たまに、わかりやすいものも混ざります。

 満員電車で、こっそり痴漢されていたというもの。最初の写真に子供がいないと思ったら、大きなぬいぐるみの中に拘束されていた、というのもありました。ぬいぐるみは、顔のところと、子供の股間の部分が開くようになっているのです。


 ただ、うまくいえないのですが、どんなに奇妙なページであっても、何が起きてるのか全くわからなくても、私は……興奮を感じました。いいしれない、おぞましいことが、子供にされているという確信は揺るぎませんでした。

 わからなければわからないほど……それくらい、おぞましい、恐ろしいことが行われていると思ったのです。

 いえ、意味不明ですよね。でも、そうだったのです。私は、恐ろしいほどに勃起し続けていました。


 やがて、写真集の終わり近くにさしかかり、空白のページが見えました。

 その時、私が感じたのは、やっと終わるという安堵だったでしょうか、あるいは、もっと見たいという失望だったでしょうか。


 ともあれ、ページをまためくって……。

 私は、ぎゃっと悲鳴を上げました。

 見開きの2ページ全部が、絶叫する子供の顔で埋まっていたのです。怒り、苦痛、あるいは快楽。

 これまで登場していた子供たちの顔です。


 顔だけの接写を切り取って並べたものですが、私は数十人の子供たちが、一斉に叫んでいるかのように感じました。


 美加ちゃんは、苦しそうに喘いでいます。

 良雄君は、喉をのけぞらせ、舌をつきだしています。

 ののかちゃんは、顔を真っ赤にして、片目をつぶっています。

 美樹ちゃんは、悲しそうな顔で、でも、隠しきれない快感がにじんでいます。

 キリコちゃんは、穏やかな顔で、快感を受け入れています。

 さなちゃんは、眉をひそめながら、口を開けています。苦痛と不快感と嬉しさが混ざっています。

 ちいこちゃんは、大きく口を開けて、顔をくしゃくしゃにして叫んでいます。

 かかちゃんは、口をいっぱい開けて、あの奇妙な笑いをしています。

 指呼ちゃんは、笑っています。

 来濡ちゃんは、泣いています。

 砂狭叉ちゃんは、顔の半分泣いて、もう半分で笑っています。


 全員が、全員、激しく、責められて、犯されて、その頂点の表情を切り取られている。何の根拠もなく、私はそう確信しました。


 私は息を整えて、最後のページをめくりました。


 前の見開きと同じ写真。子供達の写真です。ただ、全部が白黒になっていて。

 真ん中に大きく、筆文字の薄墨で、鬼邑と書かれています。字はこれで正しいかわかりません。


 これはAIなのでしょうか。わかりません。あるいはAIだとして、AIは、どこから、これを持ってきたのでしょうか。

 AIの性能が高すぎる、という研究があると聞いたことがあります。AIのプログラムは単純で、ただ文字を確率に応じて並べるだけです。それだけなのに、人間が納得できる受け答えをしてしまう。そんなことは本来、ありえないというのです。

 そうなのでしょうか。わかりません。何もわかりません。


『家族のアルバム』は、数日後、私の家からなくなっていました。メモの一部も紛失しました。

 秋葉原のあの店は、ご存じの通り、主人が死んで代替わりしました。新しい主人に聞いても、本の仕入れ先などはわかりませんでした。


 あれから知人とは連絡が取れません。留守電が一本だけ入っていました。

「××(私の本名です)逃げろ。ORGAが狙ってる」というものです。

 ORGAとは何で、何を狙ってるのでしょう。


 『家族のアルバム』が、なぜ、あの日、あの時、あの場所にあったのかわかりません。でも、それを私が取ったのなら運命なのではないでしょうか。


 私には性欲があります。それはこの世界では、絶対に肯定されないものです。そのことには納得しています。

 でも、だからこそ、この世界が私を呼んだのではないか。そんな想いが私の胸を満たすのです。

 呼ばれたのだから、行かなければなりません。


 てがかりが必要です。


 誰か、教えてください。

 もしあなたが、ORGAを知っているのなら、鬼邑を知ってるなら、にさま、うばさまを知ってるなら、コメント欄でも、メッセージでも、おしえてください。

 砂狭叉ちゃんが、待っています。

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