ホラー作家ごっこ
奥羽王
第1話
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締切前日になってようやく重い腰を上げ、レポート執筆を開始する。書き終えた頃には、時計の針は深夜二時を回っていた。課題を専用フォームから提出してパソコンを閉じ、思わず大きく伸びをする。明日は午前の授業が無いから、10時頃までは眠れるだろう。早々と布団に入ったその時、玄関のドアを激しく叩く音が響いた。
ドンドンドンドンドンドン!
飛び起きた俺は反射的にスマホを手に取り、いつでも通報できる準備を整える。こんな時間に一体何が起きた?不審者で無ければお隣さんだろうか。このアパートは学生ばかりだから、酔っぱらった隣人が帰宅する部屋を間違えたのかもしれない。恐る恐るインターホンの通話ボタンを押し、玄関前のカメラをオンにした。
真っ赤に充血した目の中年男性がカメラを覗き込んで笑っていた。
声にならない叫び声をあげ、俺は数歩後ずさる。やばい、通報しないと絶対にやばい。110を押し終えたのと同じタイミングで、玄関から鍵の開く音が聞こえた。
"""
んー。こっからどうしよ。
鍵が開いちゃったらもうどうしようもないのでは?
近頃のオカルトブームに感化された私は、ホラー作家の真似事をしていた。どこかで見たような設定をお借りし、とりあえず書き始めることはできる。しかし気の利いたオチは浮かばず、毎度毎度この辺りで筆が止まってしまう。
早々に自分の発想力に見切りをつけた私は、いつも通り小説のタネをAIに流し込んだ。レポートにせよホラー小説にせよ、AIは私より数段良いモノを出力してくれる。
「以下のホラー小説を読んで、適当に続きを書いて完成させてください」
「もちろんです。次のように小説の続きを考えました:
締切前日になって、美咲はようやくレポートに取り掛かった……」
開始された出力を見て私は違和感を覚える。美咲は私の名だ。普段使いの中でAIが名前を記憶していたのだろうか?
その後も出力が続く。例の男性が部屋に入り、私と同名の主人公をめった刺しにする。こんなものオチでも何でもない。不気味に思った私は出力を停止しようとするが、PCが操作に反応しない。そうこうしている内に小説は完結し、最後の一文が表示される。
「以上の文章は、これから起こる実際の出来事です。」
出力と同時に、ドンドンドンドンドンドン!と扉を叩く音が聞こえた。
ホラー作家ごっこ 奥羽王 @fukanoro
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