ひと夏の恋のメロディ

船越麻央

誰がためにセミは歌う

 やっとこの時が来ました。


 七年も待ったのです。


 今、僕は自由です。


 そして彼女のために僕は歌っています。


 ひと夏の恋のメロディ。


 彼女は気づいてくれるでしょうか。


 おそらく近くにいるはずです。


 僕の声は聞こえていると思います。


 もし、聞こえたら……僕のところに来てほしい。


 あの日、僕たちは約束しました。


 七年後の夏に再会すること、そして……。


 でもライバルは多いのです。


 僕よりも大きな声で歌っている者もいます。


 僕も負けてはいられません。


 彼女との約束を果たすために歌いました。


 どれくらい歌ったでしょう。


 彼女が、彼女が来てくれました!


 彼女も約束を覚えていてくれたのです。


 僕は歌うのをやめました。


 もう歌う必要がなくなったのです。


 僕と彼女の子供たち。


 また七年後の夏。


 ひと夏の恋のメロディを奏でることでしょう。


 僕も彼女も後は土に帰るだけです。


 はかない一生だと人は言います。


 でも僕は精一杯生きて、精一杯歌いました。


 悔いはありません!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ひと夏の恋のメロディ 船越麻央 @funakoshimao

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ