不香の話。

月夜

不香の話。

 目に染み、頬を切り裂くような風が吹きつけた。

真冬の凜凜りんりんたる寒さの中、吐き出した息が白く視界を曇らせる。


「寒すぎる……」


伏せたまつ毛に冬日が差し込み、思わず顔を上げると、街は一面の雪景色だった。

左右にあったはずの縁石も、見渡す限り雪に埋もれている。


すれ違う人たちの淡紅色たんこうしょくに染まった頬をぼんやりと眺めていると、瞬間。

コートの裾を翻すほどの空っ風が吹き上げ、反射的に足が止まる。

一息ついて、粉雪が舞い始めたことに気がついた。


「うわっやばい、早く帰らないと」


この時期といえば、いつもは春一番が吹く頃なんじゃないか。

毎年同じように訪れる冬も、よく見れば少しずつ顔を変えている──そんなことを思いながら、志凪は家路を急いだ。

そして頭の中では、もう帰ったらやりたいゲームのことでいっぱいだった。

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不香の話。 月夜 @Tukiyo__Rai

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