第3話見送り

その夜、私は踏切へ向かった。

赤いランプが点滅し、警報が鳴る。

線路の向こうに、また少女が立っていた。


「真琴ちゃん…?」

口にした瞬間、少女の唇がかすかに動いた。

――おかあさん。


背後で、あの駅員の声がした。

「危ないですよ」


振り向くと、懐中電灯の光が私を照らす。

あの夜と同じ顔。

だが、その瞳は涙で濡れていた。


「ごめんなさい…まだ、見送りが終わっていなくて」

そう言って、駅員は少女のほうへ歩き出した。

遮断棒をすり抜け、少女の手を取る。


次の瞬間、電車が轟音とともに通過した。

視界が開けたとき、そこにはもう誰もいなかった。


残された踏切の向こう側、風だけが白いワンピースの裾を揺らしていた。

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踏切 アンティス @Akiresu_Kame

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