栄さんの誕生日
大電流磁
栄さんの誕生日
あなたは同僚のAさんに以前から好意を抱いています。
共通の友人Bさんから、偶然Aさんの誕生日を知ったあなたは、バースディ・プレゼントを贈ることにしました。
けれども、受け取ったAさんは怒りだしてしまいました。
Aさんはどうして怒ったのでしょう?
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最近、開発室にやってきた最年少の女子社員、
どんな嫌味を言われても怒らない。
頼まれた仕事を確実にこなす。
いつも笑顔を絶やさない。
総務の
美子とタバコを吸いながら二人だけで喫煙室で話す機会があった。
「志位、おまえ、今度は栄ちゃんか。惚れっぽいな〜」
突然美子に言われて吹き出した。
「な、な、な、なん!」
「アーシに、わからんとでも? チラッチラチラッチラ目線送って。まあ、あの女子力がアーシにないのは認めるけど。」
「昔、お前にはかなり癒されたぞ。」
美子はニヤリと笑う。
「ヨリは戻す気ないぞ。」
「でさ、栄さんのことなんだけど、人事情報から誕生日とかわかるかな?」
「おめーは学生か。コンプライアンスってものがあるのだよ、チミ。」
そこをなんとかと美子を口説き落とし、誕生日の4桁の数字をLINEでもらった。
栄さんの誕生日が来た。
プレゼントを渡す機会をうかがっていたが、なかなか訪れない。退社のタイミングを見計らって、同じエレベーターに乗り込むことに成功した。
少しの沈黙。
「あ、あの……」
「はい? 第二開発部の志位先輩ですよね。今日はもうご帰宅ですか?」
質問に答えず、少し慌てながらカバンからプレゼントを取り出す。
「栄さん、お誕生日おめでとうございます。」
そう言って小さな小箱を渡した。
ややあって、栄の目が鋭く光る。その眉は訝しげに寄せられ、志位を睨みつけていた。
「開発部、志位武男、25歳。情報監査室まで来ていただきます。」
エレベーターの最上階のボタンが押され、手首を掴まれたまま連行された。
「情報漏洩事件の容疑?」
複数の取締役と、栄さん、そして情シスのセンター長に囲まれて、俺は尋問を受けていた。
「私の個人情報は、社内の誰にも漏らしていない。それを知るには、社内サーバーの脆弱性を突いて侵入するしかない。」
「君はどこからその情報を入手したのかね? どこにセキュリティの緩いところがあるのかね?」
「栄は、開発室に送り込まれた情シスの極秘監査役なのだよ。最近、顧客情報の漏洩が発覚してね。億の損害が出ている。」
ここで美子の名前を出したら男がすたる。やってやんよ。
「ちょっと端末を貸してください。」
ぶっつけ本番、これまでのネットワークソフト開発経験と、アマチュア時代のゲームチート能力を総動員して、クラッキングのフリーウェアを駆使しながら、システムの脆弱性を徹底的に探し出した。
システムに対しハッキングを仕掛ける「遊びモード」に意識を切り替えると、志位にはモニターに映し出された無数のコードが、まるで生き物のように蠢いて見えた。その中に隠された「逃げ道」が、手に取るように分かった。
ピックアップした脆弱性、その数、十五。
(やってやった、クビは覚悟の上だ。はっはっはっはっ。)
栄の表情が、一瞬だけ、硬質な仮面を剥がされたように揺らいだ。
情シスセンター長と取締役、そして栄が顔を突き合わせて話している。
「君が見つけ出した脆弱性は、どうも顧客情報漏洩の件とはまるで違うようだが、君、情シスに異動しないか?」
「すごいです、志位さん。ぜひ私の力になってください。」
情シスへの異動が取締役人事で確定した。エレベータで一階まで降りる途中、栄と二人、話す。
「あ、あの、疑ってすみません、こんなことになっちゃいましたけど、誕生日プレゼント、ありがとうございました。」
「え、いえ、どういたしまして。」
少しニヤつく。
そんなこんなで、志位は栄とお近づきになれたのであった。
喫煙ルームで、人事情報をチェックしたらしい美子は煙を吐き出しながら志位に訊く。
「情シス異動ってどういうこと?しかも栄ちゃんと最近よく喋ってるじゃん」
「おかげさまさま、いろいろ成り行きがあってな、ゲームは身を助くってあんだな」
志位は美子に意味ありげな笑いを浮かべた。
「うまくやんなよー。」
美子はそういって喫煙ルームを笑いながら出ていった。
栄さんの誕生日 大電流磁 @Daidenryuji
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