第7話 豪邸に招待

「オイデマセ!我が家ヘ!」


 はえーおっきい。

 目をぱちくりとさせながら、豪邸を前にして固まる。

 門には、見たこともない動物の紋章が刻まれていた。ライオン…?いや、尻尾が二本もある。


 お礼とはいえ、こんなところに連れていかれると思ってなかった…

 相場カフェじゃないの…?


「えーっと、もしかしなくても…リュシアさんってお金持ち…?」


 俺がそう言うと、リュシアさんはクスクスと笑う。


「イエイエ、私なんてマダマダです。それに、一応コレはシェアハウスという名目デスカラ」


 シェアハウスか…それにしてもでかいな…


「ササ、入ってクダサイ」


 塀に設置されていた端末に手を当てると、ギギギと音を立てながら門が開く。

 手を当てる仕草が、やたら洗練されて見えるのは気のせいだろうか。


 てかかっけえ…


 門の向こうには、噴水つきの中庭と、映画でしか見たことのないくらい大きな玄関ホールが待っていた。


「やばぁ…」


「来てクダサイ!」


「あ、はい!」


 とてとてと小柄な体で歩く美少女リュシアさん。ここってほんとに日本なのかな…


 玄関ホールに入り、靴を脱ぐとリュシアさんにスリッパを出された。爺やはいない系なんだ。


「うお…これほんとにスリッパ…?」


 スリッパだからと言って侮ってはいけなかった。なぜならここは豪邸だから。履き心地はほぼ綿。

 いったい何でできてるんだ?


「ココはワタシのシェアメイトの部屋デス」


 なんだかんだで屋敷を案内してもらった。

 リュシアさんの部屋は三階の一番奥らしい。

 流石に二人きりで部屋に行くのははばかられたので、リビングでお茶をもらうことにした。


「コレは最近祖国からお茶ナンデス」


 リュシアさんはそう言いながらトクトクと沸かしたお茶を注ぐ。


「そうなんですね」


 なめらかな所作でテーブルに置かれたティーカップを見つめながらそう答える。


 あれ、作法ってなんだっけ…

 なんか、右手で持つんだった気がする。

 親指と人差し指でつまむんだよな…?


 不安になりながらも何とかこなし、音をたてないように飲む。


「ッ!」


 うまい…茶でうまいって思ったのは初めて緑茶を飲んだ時以来だ。

 俺があまりの甘美さに固まっていると、リュシアさんはクスクスと笑う。


「オイシイでしょう?ワタシも大好きナンデス」


 大好き、だいすき、ダイスキ

 その言葉が脳を反響する。


 危ない危ない…勘違いするところだったぜ…


「──ワ?トワ?」


「ひゃっ、ひゃい!?」


 リュシアさんが小首をかしげながら、俺の顔を覗き込んでくる。

 至近距離。青色の瞳がきらきら揺れて、体温が一気に上がる。


「な、なんでもないです!お、おいしいって思ってただけ!」


 慌てて背もたれに寄りかかると、後ろで椅子がギシ、と鳴った。

 そんな俺を見て、リュシアさんはくすくす笑って、背筋を伸ばす。


「アハハ、トワは面白い人デスネ!」


 そこへ、奥の廊下から軽い足音が聞こえてきた。


「おーい、リュシア。誰か連れてきたのか?」


 声の主がリビングに顔を出す。

 鮮やかな青髪を一つ結びにした二十代半ばほどの女性が、興味津々といった表情で俺を眺めた。


「オット…こちら、シェアハウスのメイト、アリア・フェルディナンド。料理担当デス」


 ここのシェアハウスは顔面偏差値高くないか?…そう思った俺だった。

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ダンジョンで縛りプレイしてるやつ @ezez

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