第6話 西洋風美少女

「さよーならー」


 気の抜けた学級委員の礼の声で、生徒はガヤガヤと教室から出ていく。


「十羽ー!カラオケいこーぜー!」


 カナタがカバンを持った俺の元へやってくる。


「カラオケかぁ…」


 申し訳ないが、今日は早めに帰って姉貴とダンジョンダイバーになるための話をするつもりなので、断らせてもらった。


「あー…」


 あの悪夢のフラッシュバックは消えたが、月曜ということもあり、そこそこの疲労感がある。

 ぼーっと歩いていると、正面から何かがぶつかってきた。


「キャ!」

「いてっ」


 ドサッと足元で倒れる音がした。


「大丈夫ですか!?」


 しゃがみこんで安否を確認する。


「イテテテ…」


 思わず息を呑んだ。


 一言でいうなら、人形のような少女だった。

 さらさらとした金髪に、ガラスのように透き通った碧い目。雪のように白い肌に加えて、しっかりと収まるところにあるパーツ。そのすべてが整っていた。それに加えて、街に似つかわしくない真っ白なドレスをまとっていた。

 その姿に思わず見とれてしまったが、すぐに頭を振り、雑念を消した。


「っすみません。ぶつかってしまって…」


「あ、アゥ…ッ!」


 少女はとっさに立ち上がり、自身の走ってきた道をせわしなく確認している。


「えっと…何かあったんですか…?」


「…っ!」


 少女は何も答えずに、慌てて俺の背中に隠れる。


「…?」


 困惑していると、少女の来た道から五人ほどのガラの悪そうな男が来た。


 あ(察し)


「チッ!あの女どこ行きやがった…!?」


 バチバチにピアスを開け、ニット帽を深くかぶった男が舌打ちをする。


「クソ…!せっかくいいモン見つけたってのによ…」


 金髪に褐色肌の話を聞いてくれそうな男が文句を口にする。


「た…タマがぁ…!」


 股間を抑えながらオネエ走りでやってきた男もいる。


 なんか愉快だな。


 俺の横を通り抜けようとしたので、さりげなく少女を背にしたまま壁に寄る。


「…もういなくなりましたよ」


 俺がそういうと恐る恐る出てくる。


「た、助かりマシタ…!」


 少女はほっと胸をなでおろすと、俺に向き直る。


「アリガトウゴザイマス!オニイさん!」


 若干カタコトな印象を受けた。

 少女は深く礼をして、顔をゆっくりと上げる。


「いえいえ…大変でしたね…」


「ソウナンですよ!アノヒト達!タノシイことをスルって言われて…ツイテ行ったら…!」


 それでついていっちゃうこの少女もなかなかの大物だ。

 見た目やしゃべり方からしておそらく日本人ではないのだろうが、言っちゃ悪いが非常識な印象も受けた。


「ア!申し遅れマシタ!ワタシ、リュシア・ヴァルターシュタインと申しマス!」


 ドレススカートを少し持ち上げ、ぺこりと礼をする。その姿と名前も相まって、どこかの国の貴族のようにも見えた。


「リュシアさん。俺は難十羽です。」


「ナン?ナンサン?」


「あー、苗字が難で、名前が十羽です」


「アウ、トワ?トワ!」


 いきなり呼び捨てになったことにもびっくりだが、特にいやな気持はない。


「トワ!ワタシ、貴方にお礼シマス!ついてきてクダサイ!」


 手を引かれ、バランスを崩しかけるが、何とか立ちなおす。

 てか力強!?


「ちょっ、ちょっと!?」


 俺は今日姉貴と話をしなきゃダメなんだ。そのためにも一刻も早く帰るんだ…!


「あう…お礼…サセテもらえないデスカ?」


 かわいらしく上目遣いで俺の顔を見つめてくる。


「グッ…!」


 美少女の上目遣いは…反則だ…


「ま、まあ少しくらいなら…」

「ホントデスか!?」


「近いです…」


 グイっと顔を近づけてきたリュシアさんに若干ドギマギしながらもついていくことにした。

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