好きになった先輩はゲイでした。

大桜

第1話

 僕は鮮明に春の香りを感じた。


見上げてみれば桜がちらほら咲いていて、高校への入学を祝福している様だった。

僕が入った高校は、長い坂を登った先の森の中に立つ「白井高校」というところだ。ここにした決め手は家から徒歩15分、自転車で6分弱という好条件に加えて、男子が学ランだったからだ。現に僕も学ランを着て学校に向かっている。今の時代は女子が学ランを着るのが許されている。それに僕は納得がいかない。細身の身体でちょっとやけた肌にワックスは愚か寝癖さえも直されていない髪。そんな男が僕は好きだ。そう。僕は同性愛者、世間ではゲイと言われるやつだ。女の子を好きになったことは無いし、女の子に対してエロいという感情も湧かない。それを自覚したのは中学2年生の春で同じクラスの男の子が僕の手を握ってきた時だった。その男の子には最後まで思いは伝えられなかったが、後悔はない。高校に上がれば身体的にも大人に近づいていて、ある程度の知識をつけたイケメンが沢山いると思っているからだ。


これから、僕の最高な人生が始まるんだ。イケメンな彼氏を作って、文化祭を一緒に回って、テスト期間が始まったら一緒に勉強して、そのまま家で抱き合って___。って、ドラマの見すぎか。


長い坂が差しかかると、次第に生徒も増えていき、今日から始まるんだという実感が高まる。


「おー!豊じゃん」

うわぁ。相変わらず耳に響くうるさい声。後ろを振り返ると長い坂をダッシュで登ってくる同中の櫻川春人がいた。コミュ力の塊でサッカー部でもスタメンとして活躍してたことから、クラスのムードメーカーとして活躍していた。それ故に女子からも人気があった。

「櫻川もこの高校にしたんだ」


「そう!豊がここ受験したって聞いてたから、今日ずっと探してたんだよ」

乱れた髪を整えながら歩き始める。


学校に着くまでのほんの5分間だったが、改めて彼のコミュ力の高さを思い知った。


「すげぇ。豊、みて!タイプの女子めっちゃいるんやけど!」

と、僕と女子を交互に見ながら一人で興奮している。たしかに、偏差値が高いだけあって、髪染めも自由で顔面偏差値も高めだ。


「櫻川、止まってちゃ人にぶつかるよ。早く行こ。」

女子からは目を離さずに、コクコクと頷く。



その時だった___。ゴンッ。

「え、あ、、すみません。大丈夫ですか?」

いきなり前を歩いてた人が止まって、ぶつかってしまった。ジャージを着ていたから、恐らく入学式準備を終えた先輩だろう。その人は微動だにせずただ下を見ていた。さすがに心配になりもう一度声をかけ、その子の正面に回る。

「あの、大丈夫ですか…」

その子は驚いたようにパッと顔を上げ困ったように笑った。

「あ、自分が悪いんで…気にしないでください。」


僕より頭一つ低い背。切れ長で無気力な目は笑うとナメクジのように細くなり、印象的だったのは、頬にあるホクロと、ワックスなどつけられていない、きれいに切りそろえられた髪の毛だった。


僕はその一瞬で、恋をした。

名前も知らない今見ただけの男の子に。


「豊、気にしないでって言ってくれたんだし、ありがとう。って気持ちで早く行こうよ」


僕は思う。

櫻川、空気読めや。


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