第40話 エピローグ

 ロックの町は、俺たちを歓迎してくれた。そのおかげで、町での生活を苦手そうにしていたグレイシアもすぐに馴染んだ。

 ロイネは食べ物が美味いと、毎日色々な店に行きたがってる。俺もそこは同感で、美味いだけじゃなくエルガルドの食事には和食の気配を感じる事があって凄く気になってる。

 このエルガルド帝国には漂流者の影響が色々とあって、その味付けも漂流者からのものだって話だから、ますます漂流者と会いたくなった。もしかしたら俺と同じ日本人の漂流者が居るのかも。


 この数日間はロイネの冒険者登録と、俺とロイネの装備の新調。そして旅の準備で忙しく過ごした。

 準備の一つとして冒険者ギルドの資料でエルガルドのことを学んだが、サリウス王国より、国土が10倍以上もある広大な帝国だと知って驚いた。

 そんな広大な国土を旅する冒険者は、自前の馬車を持つのが普通らしく、俺は良い馬車を買うために金を稼ぐことに決めた。

 山脈に登っての荒稼ぎだ。


 これには俺一人で、行くつもりだったけど、この5日間、熱心に訓練を続けたロイネとグレイシアが私たちも行くとついてきた。


「もう! 私も身体能力特化になりたかった!」


 ズガガガガガッ!


 ロイネがオーガを槍で滅多刺しにしながら不満を訴えてる。

 たった5日でロイネの槍術は見違えるほどに鋭くなってる。

 どうやら、人の成長には身体能力型とスキル型があるらしく、ロイネは身体能力が思ったほどの早さでは伸びなかったかわりに、槍術の腕前が大きく向上した。


「いや、その槍術の成長で十分だろ」

「そうだけど……ここまで登るの大変だったんだからね。二人とも速すぎよ。どういう足腰してるの?」

「ごめんごめん」


 もともと戦闘スキルがない俺と、スキルを獲得できない獣人のグレイシアは、その分身体能力の成長が早く、グレイシアはもともと高かった機動力に磨きをかけている。

 そんなグレイシアは、倒したい相手がいるらしい。


「グレイシア、無理はするなよ!」

「前回は逃げるしかできなかった。今回は倒す!」


 グレイシアが大きな岩の上で、空を舞うグリフォンを睨みつけてる。私を狙えとアピールしてるんだろう。


「ギョアーーー」


 アピールが届いたらしく、グリフォンが急降下し凄まじいい速度でグレイシアに襲いかかった。


 シュバッ!


 岩から飛んだグレイシアが、グリフォンのツバサを切り落とした。


「私もあんな動きがしたい!」


 ズシュッ!


 転がってきたグリフォンに、ロイネがとどめを刺す。


「まぁまぁ、これからだよ。ロイネは若いんだからまだまだ成長するって」

「そうならいいけど……そのためには毎日添い寝だからね!」

「それは、喜んで」


 断る理由がない。3人で宿に泊まるようになってから、常に3人で添い寝だ。3時間位で目を覚ますのも、一人じゃなくなったから苦痛じゃなくなった。

 短時間の睡眠で完全回復できるのって、宿場を使わず野営で移動距離を稼ぎたい時にも都合がいいはずだから、今後の冒険者生活でも癒やしの加護は役に立ってくれるだろう。


「ロイネ、今日はオルトと2人で寝たらどうだ?」


 グリフォンの魔石を回収したロイネに、グレイシアが提案する。


「え、えーっと、3人でよくない?」

「私がいたら後尾しにくいんだろ?」


 うん、すごく露骨。いつものことだけど。反応に困る。


「も、もう! そんな言い方しないでよ。グレイシアはデリカシー無すぎ!」

「そうか……すまん。だが、申し訳なくてな」


 グレイシアとしては、1番目の女であるロイネを差し置いて、自分だけが俺と熱い夜を過ごしたことを申し訳なく思ってるんだろう。

 でも、ロイネはそこを求めてない。というか、3人での添い寝はできるけど、俺と2人だけで寝ようとはしない。これは勘だけど、たぶんロイネはそういう経験がないんだろう。3人で寝ると決めた初日の緊張した様子でなんとなく分かった。

 俺としても、グレイシアにどうぞとお膳立てされて、そういう事になるのは、なんか違う気がするから、しばらくはそういうのを気にせず3人で楽しく過ごしたい。


「グレイシア、そういうのは人それぞれだから、気にしなくていいよ」

「わかった」


 グレイシアだけに聞こえるように言うと、申し訳無さそうに頷いてくれた。


 俺は現状でも幸せ者だ。冒険者のパーティーはあちこちで目にするが、こんな魅力的な仲間に恵まれてるパーティーなんて見たことがないからな。

 ロイネとの関係はゆっくり進めればいい。問題があるとすれば、ロイネの目のないところでグレイシアが求めてくることだ。あれは、バレないようにしないとヤバい。


「あ、サイクロプスだ!」

「あれは私には無理だ。硬すぎる」

「だね。オルト出番よ」

「わかった」


 とりあえず金を稼いで、3人で気持ちよく使える馬車を買って、適当に冒険者の仕事を楽しみながら漂流者の村を目指すことになるが、これからの旅がどんな旅になるかを想像するだけで、俺は凄く楽しい気分になれる。


 メイスを肩に背負って、倍以上の身長があるサイクロプスに向かっていく。


 記憶障害の問題もあるけど、今が幸せすぎて一つも苦にならない。正直、変に悩むことになるなら、このまま記憶が戻らなくてもいいと思ってる。


 頭上から振り下ろされた拳を前に出て避け、サイクロプスの膝にメイスを叩き込む。


 バキャッ!


 膝を砕かれたサイクロプスが倒れる。


 ドガラッ


 地面に転がったサイクロプスの頭に、メイスを振り下ろす。


 ゴキャッ!


 サイクロプスの頭蓋が砕け、短い痙攣のあとに動かなくなる。


「サイクロプスが子供扱いだな」

「手加減うまくなったね。最初の頃は戦う度に血まみれだったよね」

「だな。なんか色々経験して、加減も覚えたし、気持ちにも余裕ができたよ」


 俺も冒険者として成長してるってことかな。


「気持ちに余裕をもってサイクロプス加減して倒せる人間か」

「ほんと、凄いよね。まぁ私は最初から特別だと思ってたけどね!」


 この先何があろうとも、この2人は俺が守る。そう考えて鍛えてるからね。世間知らずだから、助けられることのほうが多いかも知れないけど、そこだけは絶対だ。そのためにも、もっと強くなるつもりだ。


「じゃぁ帰ろっか。たぶん高級馬車が余裕で買えるくらいの金は稼げたはずだ」

「そうね!」

「高級馬車か。楽しみだ」


 馬車を買って、旅の道具を積み込んで、エレナ将軍から連絡がきたらすぐに出発だ。

 このロックでの生活も楽しいけど、早く旅に出たいぞ。

 あ、またどうでもいいこと思い出した。

 この今の心境は、お約束のあれだ。

 口に出すのは恥ずかしいから、心の中で呟こう。


 俺たちの旅はこれからが本番だ!

 

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