第2話 笑った日

ー笑った日ー

 

 


 「おい、お前どこで泣いてるんだ」


はるとを探して30分、まさかの学校外にいた。

はるとは僕を見た後、また顔を膝に埋めた。

こりゃいつもの泣き方が始まる。

  

 「う“るせえよお、ほっとけよお」


微妙に言葉を伸ばしながら泣くはると。

僕も今に泣きそうだ。


怖かった。

辛かった。

苦しかった。

全部、投げ出したいと思った。


なのに、なぜか続けてしまう。

僕の悪い癖だ。




♢♢♢♢




「“ココロ店”行くか」


はるとが泣き止み、そのまま僕らは“ココロ店”のたっているモールで昼食を食べていた。


受け取ったバーガーは肉汁がすごく、疲れた体に染み渡る。なのに、急にはるとの口から衝撃的なことが発せられた。


「お前、今なんつった?」

思わず、聞き返してしまう。


「だから、“ココロ店”行くかって」


「お前…次は頭おかしくなった?」


「おかしくなってねえよ!」


また一口バーガーを食べる。

トマトの果汁が口にわたる。おいしい。


フードコートを出たら、すぐそこに“ココロ店”がある。ついで…という訳でもなさそうだ。


「どうしたんだよ急に」


「いやさ、いつかは行かないといけねえわけじゃん?それなら、状況混乱している今こそ行ったほうが、帰ったら情報整理しやすくね?」


たしかにそうだ。

今一度全てを見て、知って、帰ってから整理する。それもココロの整え方でもある。


ただ、一つ問題がある、

「あれってまずは遺族が受け取らなきゃ見れなくね?まあなるきの家族が取りにくる訳ねえけど。」


「まあ…な。取りに来たとしても、燃やして存在ごと無くしそうだよな。」


ああ、とも言い返せない。

なるきの《家族》がそこまでクズだと思いたくないのかもしれない。


きっとそうだ。

明日にはこの思考はないだろうけど。


明日には、なるきのことを忘れているかもしれない。

明日には、はるとを嫌っているかもしれない。

明日には、音楽を忘れているかもしれない。


そう考えてしまうのも、僕の悪い癖だな。




♢♢♢♢




「ありがとうございましたー」


ちょうどゴミ箱にゴミを捨てた時、店員が感謝をした。いつも思うが、こんなことで感謝されんのか。


日本人はなんでもかんでも謝るし、小さいことで感謝もする。そう考えると、日本人って慎重だ。


こんなことをなるきに伝えたら、すぐに曲にしようとか言うんだろうな。


なんて、寂しいことを思ってしまう。


「なあ、やっぱり“ココロ店”行くか」


なんだか、行きたくなってしまった。

別に、このままだと後悔するとか、帰ってから整理したいという訳でもない。


ただ、なるきの文字が見たくなってしまった。

たったのそれだけだ。


きっと。


「…じゃあ、行くか」


少し間をおき、はるとは答えた。


この顔は、驚いている顔だ。目を少し見開き、眉をあげ、下唇を噛み、もう一言言う。


「逃げたらダメだからな」

やっぱりこの言葉だ。


「んなことわかってるよ」


呆れて言う。あの時の僕じゃないんだ。




♢♢♢♢




「いらっしゃーい」

元気よく、若い男性の声が“ココロ店”に響く。

小さくお辞儀をし、‘くせ なるき’の名前を探す。


ない。

ない。

ない。


遺書の部門に、なるきの名前がない。

            「ねえな」

小声ではるとが言った。反対側を探していたはるとさえ見つけられてないようだ。


「店員どこ行ったんだろうな」


そう言われ、店内を見渡すと本当に店員の姿がなかった。さっきまでレジにいたのに、不思議な店員だ。


また黙々となるきの名前を探す。

数分した時、「ノート部屋」の方から怒号が響いた。



「てめえ、燃やせつってるんだ、お客様は神様だろうがよ!!ここはそんなこともできねえのかよ!」


「すみませんお客様…」


これはよく言う、“カスハラ”だ。

初めてこの耳で聞いた。

高校生として、止めに行きたい気持ちもあるが、さすがにそんな気力もない。


聞いたことがある声でもあるし。


「あんなに声出せんなら一回でもライブ来いって話だよなあ」


どうやら、はるとも気がついているようだ。


「なるきのおじさん」

「なるきのおじさん」


顔を見合わせて言う。


そう、なるきのおじさんだ。

細かく言うと、なるきの《元》父親の弟だが。


なんのためにここにきたのか。

あいつがなるきの遺書を貰うなんて、頭のネジの外れた汚い大人だ。


「はっやくしろよ!客だって時間がねえんだ!こんなのに時間なんかかけさせやがって…!」


ドンッと何かを蹴飛ばす音がした。多分、受付のテーブルを蹴ったのだろう、これはまずい。




さすがに止めに入らなきゃいけない。




その言葉を横にいるはずのはるとに言おうとしたら、横にはるとはいなかった。

前を見ると、すでにはるとはなるきのおじさんの前に立っていた。


「おじさんさ…いつになったらその癖治んの?一応大人でしょ?なるきのノートでしょ、それ。なに、親戚にでも取ってこいって頼まれた?ひどいね、仮でも自分の息子なのに、ここまで無関心に燃やせだなんて。どうせ燃やしちゃうならさ、それ、ちょうだいよ。」


っと、挑発的な態度をとるはると。

なるきのおじさんは顔をリンゴのように赤らめ、はるとに怒鳴った。


「またお前らか!!!どいつもこいつも、一体何度俺を邪魔すりゃあ気が済むんだ!!このクソガキが!」


そう言い、なるきのおじさんは手をグーにして、はるとに向かって手を振り下ろした。


「はるとっ!!」










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ココロノート 月乃 レイ @Tukino_rei415

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