第20話:エピローグ


 あれから、一年の時が過ぎ去った。

 オレは13歳となり、ヘレナは15歳。


 あの日、ウィルゼスト領は多大な被害を出しながらも、邪神教団に勝利した。


 生き残った者たちが凱旋がいせんした後、瓦礫撤去と復旧作業が数ヶ月に渡って行われた。

 ちなみに、あの屋敷に突き刺さった巨槍は、オレが闇に取り込んで処理をした。


 半年が過ぎた頃には、街は見た目上元通りになり、死者を弔う場が大々的に設けられた。


 それと同時期に、アルスとマルスは一足先に学園へと旅立って行った。


『ノーグ、俺はお前に命を救われた。まだまだ未熟な兄かもしれないが、学園で研鑽を続けて、お前が頼りなると思えるような男になって見せるよ』


 アルスの言葉。


『ノーグ、お前は強い。だが覚悟しておけ、俺は必ずお前を越える』


 マルスの言葉。


 二人とも、とにかく優しいことが分かった。

 この貴族社会では、兄弟同士で揉めるというのはよくある話だ。


 だが、そんな影は微塵もない。

 なんなら、アルスはオレに次期当主の座を譲ろうと考えている節が見られる。


 オレはまったく継ぐ気はないけど……。


 父上がどういう反応をするかは分からないが、おそらくアルスが当主になるはずだ。


 そして、あの一件以来。


『ねぇ、ノーグは私と結婚するのは嫌かしら? 他の男ではもう満足できないの。だから私を貰って?』


 セリアのブラコン化が加速した。

 一応言っておくが、手なんて出していない。

 だから勘違いはしないで欲しい。


 ガレウスに関しては、領内の復旧でかなりの金が吹き飛んだので、ますます忙しそうにして仕事に励んでいる。


 基本的に、朝から晩まで仕事ばかりなので、帰ってきた時にサプライズでケーキを作ってあげたら、ボロボロに泣いて大変だった。

 可愛いところもあるツンデレパッパである。


 エルナは、父の公務の補佐を行っている。

 他貴族との交流や、領地管理の補助、商人とのコネクション作りなど、かなり手広く行ってくれている。


 本当に素晴らしい家族だ。


 そして騎士団とは、相変わらず一緒に訓練をする仲である。

 近い内に、またヴァルハイル密林へと遠征に行くらしく、オレとヘレナの同行も決まっている。

 今回は『禁域』にも突入するとのことなので、少し楽しみだ。


 邪神教団に関しては、あれから接触はない。

 警戒しているのか、戦力補充に改めて動き出しているのか……。


 詳細は分からないが、一応コチラも警戒は続けている。

 そして、倒した教団のヤツらは、特別にオレの闇の世界へと取り込み、永遠の悪夢という洗濯機に詰め込んで洗浄している。


 オレ直属の暗部としてでも働いてもらおうと思っていた……んだけど、教団は余りにも恨みを買いすぎていた。


 特にヘレナだ。

 『教育ちょうきょうは私にお任せ下さい』とか言い出して、どこかに出かけていく事が増えた。


 『使徒』と『奏者』の幹部二人もそうだ。

 死にかけていたところを、しっかりと回収させてもらったわけだが……。


 『奏者』はヘレナの兄を殺しているし、『使徒』は王城に槍を落としている。


 なので、教団の処遇についてはヘレナに一任した。

 実際、裏で何が行われているのかは、オレにも分からない。

 世の中には、知らなくていい事もあるのだ。


 ちなみに、仮称ベリオンが南下して来ていたのは、やはり教団が秘境にちょっかいを出した結果だった。


 今後も、また接触してくる可能性は否定できない。

 一時的に勝利を掴んだ。

 しかし、まだ根本的な排除には至っていない。


 いずれ、しっかりと決着をつける機会が来るだろう。


 と、ここまでが、この一年の間にあった大体の出来事である。


「やっぱり平和が一番だな」


 自室から、窓の外を眺めて呟く。


「ノーグ様、お飲み物をお持ちしました」


 ノックをして部屋へと入ってきたのは、相変わらずの無表情メイド──ヘレナだ。


「ありがとう」


 この一年で、一層大人びたように見える。


 ただ、普段の様子は昨年から変化はない。

 常時オレにベッタリだ。


 最近では、夜寝る時になると部屋に来て、


『一緒に寝ても良いですか?』


 と、上目遣い+頬染め+ネグリジェ姿でお願いしてくる。


 綺麗な女性と同衾どうきんできることに不満を感じる男などいるだろうか?

 少なくともオレは気にならないので、好きにさせている。


 そんなことを思い返しながら、ヘレナから貰った紅茶を飲んで一息つく。


「ノーグ様、お手紙が届いておりました」


 そう言ったヘレナが、手に持った手紙を手渡してくる。


「なんか凄い豪華な手紙だな……」


 全てが黄金で装飾されており、所々に宝石があしらわれている。


 ササッと開封して、内容を読み込む。


「ついに来たか……」


 手紙の一番上。

 太い文字で大きく書かれていたのは……




 『オルトシア学園国家への招待状』




 決戦の地。

 様々な陰謀が渦巻くあの舞台で、大きな物語が動き出すのだろう。

 オレが勝手に作り上げたシナリオだとそうなっ ていた。


「従者の同行は許可されているらしいな……。ヘレナ、来てくれるか?」


「はい、喜んでお供いたします」


 ヘレナが着いてきてくれるなら、コチラも心強い。

 大抵のことは『パワー』で解決できる。


 学園に行くのは2年後。

 まだ時間はある。


 この間にもガッツリとレベルを上げて、万全の体制を整えてその日を迎えよう。




「さて、鍛錬でもするかな」




 こうして、オレたちの長いプロローグは幕を閉じる。




 そして次は、原作のプロローグへと……。





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※ここまで読んでいただいた読者の皆様、本当にありがとうございます。

 ということで、この『悪役のプロローグ』はこれにて完結となります。

 初めての作品ということもあり、拙い部分もあったかなと思いますが、楽しんでいただけたら幸いです。



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悪役のプロローグ〜原作開始前の悪役に転生しました……ところで、悪役の過去なんて知らないんですが? 黒猫 @totorakoji

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