第26話 宣言


「ええ、貴女の琥珀ですよ」

「なっ! それよりも身体は大丈夫? 早く宣言をしないと!」

「分かっています。大丈夫ですよ」

「……っ、如何したらいいの?」


 琥珀は爽やかな笑みを浮かべるが、言葉と表情とは裏腹に額には汗が浮かんでいる。相当な無理をして私を助けてくれたのだ。


「名前の後に、僕の妻になると宣言してください。僕が先に宣言しますね」

「分かったわ」


 そっと石階段の最上部に降ろされると、手を差し出された。きっと手を繋ぐのも宣言をする為の所作なのだろう。私は琥珀の手に左手を重ねた。


「私、雷神の琥珀は鈴木美智留を我妻として迎え入れ、一生愛して彼女を守ることを此処に宣言する!!」

「……っ、私、鈴木美智留は、雷神の琥珀の妻になり、ずっと一緒に居ることを宣言します!!」


 初めて聞く琥珀の大きな声は、威厳と優しさで溢れていた。彼の声の大きさにつられ、私も力の限り鳥居へと叫んだ。


「こ……これで良いのかな? わっ!?」


 宣言はしたが、これで琥珀が救われたのか分からない。私は彼に顔を向けようとすると、琥珀に正面から抱きしめられた。立っていられない程に、具合が悪いのかと緊張が走る。


「やっと……やっと美智留の名前を呼べた」

「え? そんなに呼びたかったの?」


 私の心配は杞憂に終わった。彼から伝わる鼓動と温もりが、琥珀の存在を肯定している。宣言が無事に行えたのだ。私の名前を呼ぶ琥珀の背中を撫でる。


「うん……呼んだら帰せそうにないから我慢していた……」

「ふふっ、これからはいくらでも呼べるわよ? 泣き虫ね?」


 彼の琥珀色の瞳からは涙が零れ落ちる。背伸びをすると、それを指先で拭う。初めて出会った時も泣いていた。


「泣き虫な僕は嫌だ?」

「そんなところもひっくるめて……愛している!!」


 庇護欲を誘うように、潤んだ瞳で私を見詰める。答えなど当に分かっているだろうに、この泣き虫な雷神は言葉にしないと不安なのだろう。私は琥珀の耳を掴むと、再び叫んだ。言っているこちらが恥ずかしくなる。


「……っ!! 美智留!! 僕も愛している!!」

「きゃ! 消えかけのだから、大人しくしていなさいよ!?」


 彼は満面の笑みで、私を抱き上げ強く抱きしめた。人生で初めて贈られた言葉に、全身が熱くなる。それを隠すように文句を口にするが、彼が無事で本当に良かった。


「これから宜しく、僕の奥様」

「ええ、宜しく。私の旦那様」


 何時の間にか天候は回復し、青空が広がる。私たちの門出を祝福するように虹が掛かった。

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【長編版】雷神様の生け贄にされましたが、家電を使いたい放題なので問題ありません。 星雷はやと@書籍化作業中 @hosirai-hayato

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