番外編3 番外編のエピローグ
「パパ、ママ!」
駅の改札を出ると、すぐに紬の声が聞こえた。声のする方に顔を向けると、紬を抱いたお義母さんとがいる。2人でお迎えに来てくれていたようだ。
「ただいま」
「お帰りなさい。楽しめた?」
「とても。ありがとうございました」
ちーちゃんが私の代わりの答えてくれる。
「いいえ。こちらこそとっても楽しかったわ、ね、紬ちゃん」
「うん!」
ちーちゃんはそのまま紬を預かると、腕の中におさめる。紬はすぐに胸に顔を埋めた。たぶんパパ成分を吸収してるな。ああいうところを見ると私の娘だなって強く思う。だってあんなところは見せてない…はずなのに。
「お父さんは?」
「夕飯の買い物。先に帰ってるわ」
お父さんはお母さんと紬を送り届けた後、買い出しの指令を受けたらしい。私の実家は駅近なので、4人で歩いて向かう。
「今日の夕飯は手巻き寿司よ。準備、紬ちゃんも手伝ってくれたの」
さすがちーちゃんの娘。おばあちゃんの家で料理のお手伝いまでこなすとは…。ゆっくりして、甘えてもいいのに。
「昨日もいろいろお手伝いしてね。おやつも一緒に作ったのよ」
「へええ」
私はやらなかったからなあ。
「後でお父さんの分、食べていいわよ」
いないところで何か酷いことが告げられている。
「いいの?」
「いいの。もったいないからとか言ってるから。美味しいうちに食べないと」
かわいそうだけど、まあ仕方ないか。お母さんの命は絶対だし。
「紬はえらいなあ」
「ふふん」
頭の撫でられて気持ちよさそうにしている。…もしやこのために…⁈
「お父さんと紬はどうだったの?」
「順調よ。昨日は一緒におやつ食べて公園にも行って。見てるこっちが恥ずかしいくらいデレデレ。紬ちゃんだからいいけど、あれは孫バカね。何でも買ってあげちゃうと思うわ」
「紬はあんまり物欲がないからね」
「そうなの。それがかえって刺激しちゃうみたい」
お母さんはそう言って首をすくめた。
「それで。菜乃花は?ゆっくりできたの?」
「うん」
「それならよかったわ」
昨日今日の出来事を一生懸命伝える紬とちーちゃんを前にお母さんと囁くように話す。
「どうしても紬ちゃんが最優先だから。甘えられるときに甘えておきなさい。そうもいかないときだってあるんだから」
「うん」
「あんないい人いないわよ。結婚の時も言ったけど、しっかり捕まえておくように」
「もちろん」
私は力を込めて頷いた。
◆◆◆◆
「1日だけなのに、すっごく久しぶりな感じ」
私達はいつもキングサイズのベッドに川の字になって寝る。ベッドは家具店でものすごくいいものを文字通り出し惜しみしないで買った。私は躊躇していて、ちーちゃんが珍しくそこだけはって譲らなかったのだけど……結果的には大正解だと思う。
「人生のほとんどは寝てるんだから」
その言葉に押されて、枕も掛け布団も自分にぴったりのものを。紬にはずっと使えるようにサイズがだいぶ大きめのものを。念入りに選んだ結果、ベッドが快適すぎて夜ふかしもあまりしなくなった。
「結局、自分のベッドが1番だよね」
「ほんとシーツとかは旅館のほうが絶対に綺麗なのにね」
「間違いない」
紬は真ん中で2人のパジャマを両手に掴んだまま寝ている。なんだかんだ言ってやっぱり寂しかったんだろう。大人びて見えるけど、無防備な寝顔を晒しているこの子はまだ3歳だし。
「今度は3人で旅行行こうね」
「だな。どこがいいかな」
「最初は近場かな」
「だよなあ」
「イギリス、考えたでしょ」
「………」
図星か。黙りこくったちーちゃんを横目で見る。英才教育を施すつもりだな。紬が生まれてからも観戦は育児を優先しつつも続けることはできているけど、現地は新婚旅行以来行けていない。
「長距離フライトになるでしょ」
「いや、紬なら大人しくできそうだなと思って」
「…たしかに」
騒ぐことはないだろうし…行けちゃう……かも?いやいや、落ち着け菜乃花。
「追々考えましょ。紬の意見も聞いて。根回しは禁止ね」
「はーい」
気のないはーいだ。きちんと監視しようかな。多数決になったら、ひとたまりもない。
「それじゃ、ぼちぼち寝ますか」
「うん、ちーちゃんおやすみ」
「おやすみ、菜乃花」
そう言って、すぐに寝息を立て始める。すぐ寝れる親子は羨ましい。私は手を伸ばして2人をそっと撫でる。似たような動きで面白い。いやいや、だめ。せっかく寝てるのに。
明日からまたいつもの日常が始まる。
いつもありがと。また、よろしくね。
そう2人に告げると、私も目を閉じた。
◆◆◆◆
あとがき
これにて番外編完結です。
起伏はなくて申し訳ないのですが、やりたかったエピソードでした。お読みいただきありがとうございます!
日野菜乃花は逃さない coffeemikan @coffeemikan
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