第6話

カランと音をたててドアベルが鳴る。


シックな内装にセンスのいいアンティークがバランスよく置いてある。

おお、雰囲気いいカフェだな。

近所にこんなカフェがあったとは…

一人でまた来よう、などと考えていたら席まで通された。


メニューをめくりつつ目の前の銀髪は相変わらず機嫌良さそうに揺れている。

「おにーさん、何食べたい?何でもご馳走しちゃうよ!」

——と、何かを思い出したようにパッと顔を上げて

「そういえばさ、自己紹介、まだだったよね」

「私の名前は天野瀬 悠那だよ!16歳で高校2年!」

高校生くらいだとは思ってたが高2か。若い…

そんな内心を知ってか知らずか、続けて

「好きな食べ物はカニカマで〜嫌いな食べ物はトマト!」


元気よく、と言うか勢いよく自己紹介してくれる。

勢いに若干引きつつ、こちらも最低限の自己紹介をする。

「天野瀬さんね。俺は相原 透」

「あいはら、とおる、さん」

「うーん…」

人の名前を聞いたあと何やら悩み始めた。

「なんかしっかりこないからおにーさん、でいいよね」

「…何だそりゃ。まあ好きなように呼んでくれ」

「えへへ、おにーさん優しいね〜」

「そうか?別にそんなことはないと思うぞ」

「えー、優しいよー。無理やり連れてこられたのに怒んないし」

…自覚、あったのか。

「いや、自覚あったんなら自重してくれよ…」

ため息と共に心の声がそのまま出た。

クスクス笑いながら続けて言う。

「えー、この前のお礼させて欲しかったんだよー」

「というわけで、はい!好きなの頼んで!」

メニューを渡してくる。

なるほど。ここはコーヒーの銘柄が豊富なようだ。

「そうだな…じゃあホットコーヒー。銘柄はマンデリンで」

「コーヒーのまんでりん?コーヒーだけでいいの?」

「ああ、さっき食事したばっかりだからな。食後のコーヒーってことで」

「はーい。私は何にしようかな〜」

「さっきまでバイトだったからお腹ぺこぺこだよー」

機嫌良さげにペラリペラリとメニューをめくる。

「よし、きーめた!すみませーん」

銀髪娘、もとい天野瀬さんはよく通る声で店員を呼ぶ。

「ホットコーヒーのマンデリンと、ホットケーキセットのドリンクはオレンジジュースお願いしますっ」


程なくコーヒーとホットケーキセットが到着。


「わーい、美味しそー。いただきまーす!」

コーヒーを飲みつつ天野瀬さんが美味しそうにホットケーキを頬張るのを見守る。


窓の外は陽が傾いてきているようだ。

オレンジ色に照らされた静かな店内とコーヒーの香り。

たまには、こんな日もいいかも知れないな——

そんなことを考えながら静かな時間が過ぎて行った。

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銀色リコレクション めるち @mellchi_kkym

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