第4話 魔法トコロ

「皆さんちゃんと遅れずに来たようですね」


 グリーシャは教壇に立ち、そう言った。入学式から二日後、グリーシャは教師となって最初の授業を始めようとしていた。この時間はパレス寮の二年生の授業である。


「ではこれから新学期最初となる呪文防衛学の授業を始めます。まず皆さんの実力を知りたいので、そうですね、この中で魔法に自信のある方は前に出てきてください。もし私に魔法を撃ってダメージを与えられたらパレスに五点を差し上げましょう、ちなみにチャンスは一回きりです」


 グリーシャがそう言うと一人の男子生徒が席を立った。


「魔法に条件は?」


「何でもいいですよ、私はここから一歩も動きませんし、魔法も発動しません」


 グリーシャの一言を聞きその生徒はローブの中から杖を取り出した。そしてグリーシャへ杖先を向け魔法を唱える。


衣服を剥ぐ魔法ルベイトビアレッゾ


 光り輝く魔弾がグリーシャへと放たれる。がそれはグリーシャに当たった瞬間、跳ね返り男子生徒に直撃した。


「アァァァァ」


 男子生徒が自分の魔法に衣服を剥がれ下着一枚の姿になる。


「はあ、こんな魔法どこで覚えたんですか本当に」


 グリーシャは自分の衣服をかき集める男子生徒を横目で見てあきれながら先ほどの現象を説明するため着ていたローブを脱いだ。


「皆さんも気になっているでしょうし先ほどの魔法が跳ね返った現象の説明をしましょう。ミスターシルルフ、このローブと同じように魔法を跳ね返す魔法があるのですがわかりますか?」


魔法を跳ね返す魔法マホランジエットです」


「正解です。このローブにはその魔法がかけられています、いわゆる魔道具というものです」


 魔道具、それは物どれ自体に魔法が施され、物によって使用方法は違うがほとんどの物は使用者から魔力を補充するか、あらかじめ電池のように魔道具に魔力を貯めて使用する。ごくまれに魔力を自動で生成し魔力補充を必要としない魔道具も存在する。ただそれらはすべて何百年も前に作られた古代道具であり製造方法はわかっていない。


「ではもし皆さんがこのローブを持った魔法使いと戦うとなった場合どのように対処しますか?」


割り込む魔法ディジオーネを使います」


「その通り、さすが二年生ですね。パレスに一点差し上げます」


 グリーシャはローブを着てさらに質問をする。


割り込む魔法ディジオーネ、わかりやすく強い魔法ですが、なぜこの魔法が相手の放った魔法を消滅させるかお分かりですか?」


「相手の魔法式を書き換えるからです」


「正解です。ご存じではあると思いますが魔法は魔法式により成り立っています。魔法式とは詠唱、杖の振り方、そして魔力操作の三つを合わせた総称のようなものです。割り込む魔法ディジオーネは主に詠唱の部分に新たな文字を加え相手が放った魔法を消滅させる魔法です。このようにとても便利な魔法ですが効果がない場合があります、それはなんでしょうか」


「新たに加えた文字が適応できてしまった場合です」


「そう、新たな文字を加えてもたまたま魔方式が成立して別の魔法に変化してしまう場合があります。そのため加える文字はよく選んで使いましょう。そしてもう一つ、割り込む魔法ディジオーネが効かない場合がありますがわかる人はいますか?」


 グリーシャが生徒たちに問いかけるが誰も手を挙げなかった。


割り込む魔法ディジオーネが効かないもの、それは呪文です。なぜ呪文には効果がないのか、呪文は魔法とは違いそもそも魔方式が存在しません。ではどうやって呪文を防ぐのか、方法は二つです、物理的に呪文を防ぐ、または呪文で対抗するかのどちらかです。当たり前ですが皆さんに呪文を教えることは出来ないのでこの授業では主に物理的に呪文を防ぐ方に重点を置いて解説していきます」


 グリーシャはそう言い授業を進めていった。


 ――五十分後


「では次は呪文の歴史についての授業をしますのでしっかり予習をしてくるように」


 グリーシャは授業を終え教室を出るとたまたま隣の部屋で授業を受けていたイリスと鉢合わせた。


「あ、先生」


「占い学の授業ですか?」


「はい、でも私、表の方出身なので中々ついていけなくて」


「最初なんて皆さんそんなもんですよ。気にしない気にしない」


「先生、この後暇ですか?」


「やることはないですが、何かあるんですか?」


「箒の飛び方を教えてほしくて」


「それだったらフィリップ先生の方が……」


「先生がいいんです」


「しょうがないですねえ」


 グリーシャが同じ灰色だったからか、はたまた別の理由があるからかはわからないがイリスは入学式の日からグリーシャを見つけては犬のように近づいてきては次の授業ギリギリの時間まで話をしていた。グリーシャも生徒に慕われて悪い気はしないためその話に付き合っていた。


 二人は外にある運動場に移動し生徒が練習に使う箒を取り出した。イリスはその箒を不思議そうに見ている。


「こう見るとただの箒にしか見えませんね」


「まあ箒が魔法使いの間で流行った理由は元々家にあっても違和感がないからでしたし」


「チーダにバレないようにということですか?」


 チーダとは魔法族ではない人間、要するに魔力を持たない人間の総称である。


「そうです。魔法使いの中には表界で暮らす人もいますからね」


 そう言うとグリーシャは軽々しく箒にまたがりイリスにも同じようにするように促した。


「慣れたら座って乗ってもいいですが最初はまたがってしっかり足で挟んで落ちないようにしてください」


「はい」


「ではそのまま少し飛んでみましょう。頭の中で箒が浮くイメージを持ってください」


「イメージ、イメージ、箒が飛ぶイメージ」


 イリスが魔法詠唱のように唱えていると徐々に箒が宙に浮き始めた。


「ではそのまま十メートルほど浮上してみましょう」


 グリーシャは全く体が揺れること風を感じることのできる速さで上昇していく。イリスも遅くはあるがグリーシャの後を追って上昇していく。


「中々筋がいいんじゃないですか」


「そ、そうですか?」


「はい、正直何回か落っこちると思ってました。特に問題はなさそうですし箒でゆっくり飛んでみましょう、振り落とされないようにしっかり掴まって」


「は、はい」


「大事なのはイメージですよ。では私についてきてください」


 グリーシャは先ほどよりもゆっくりではあるが初心者には少し早いスピードで学校尾の周りを回り始めた。


「イリス、しっかりついてきていますか?」


「なんとか!」


「この調子ならグレテイルフットの選手にもなれそうですね」


「ぐれいてる? な、なんですかそれ?」


「グレテイルフットです。わかりやすく言うと魔法使い版のサッカーのようなものですよ」


「私運動は苦手ですよ」


「グレテイルフットで大事なのは箒を操る技術と魔法の技術、まあポジションによっては少し運動能力が必要ですが」


 グリーシャは話が終わるとさらにスピードのギアを上げ建物の間を急降下、急上昇をしながら突き抜けて行った。


「おっとさすがに飛ばしすぎましたかね」


 グリーシャはそう思いスピードを緩め後ろを振りぬくと満身創痍ではあるがイリスが箒にしがみつきながら後を付いてきていた。


「セ、先生待ってくださいよ!」


「すみません、少しスピードを上げ過ぎました。でも着いてこれたじゃないですかとても素晴らしいことですよ!」


 グリーシャが苦し紛れにそう言うとイリスはムスゥとした表情をしながら頬を膨らませた。


「褒めればいいと思ってませんか?」


「そ、そんなことないですよ。私の方からグレテイルフットの強化指定選手に推薦したいぐらいですよ!」


「それならいいですけど」


 グリーシャの言葉を聞いてイリスが少し機嫌を直すとグリーシャは安吾の息を漏らした。


「そろそろ降りましょうか」


「そうですね」


 グリーシャがそう言うとイリスはグリーシャの助言がなくとも手慣れた様子で地上に降りて行った。


「本当にもう箒の基礎はマスターしたんじゃないですか」


「思っていたよりも簡単で安心しました」


「簡単でって普通はあそこまで飛ぶには最低でも一週間はかかりますよ」


「え、そうなんですか?」


「これはグレンタにも報告しておいた方がよさそうですね」


「褒めすぎですよ!」


 そう言いつつもイリスは頬を赤らめて照れくさそうにしていた。


「ではそろそろ授業が始まるでしょうし帰りましょうか」


「はい」


 この後グリーシャが瞬間移動する魔法を使い授業の場所まで送ってくれたため慌てることもなく授業に出席した。が、グリーシャの方は授業に始めるにあたって大きな問題を抱えていた。

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鳳灰の魔女 じぇにーめいと @kakuhou

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