最終話 1年A組担任、小林武の結論。

いじめ被害者疑惑がある南あやから話を聞いた翌日、俺は生徒相談室に南へのいじめ疑惑を相談して来た佐久間彰人を呼び出した。


今日は朝から雨が降っていて肌寒いから扇風機は動かさず、見守りカメラだけを起動して佐久間と向かい合って座る。


「結論から言うと、南へのいじめ加害は無いと思う」


「コバ先。だけど実際、南は女子たちからSNSとかブロックされてるんだぜっ」


「それは事実だ。その上で言う。南はいじめられてるわけじゃなくて、ブロックしてきた女子たちから嫌われているんだ」


「なんだよ、それ。南が美人だからって嫉妬して南を嫌うのかよ……っ」


「それだよ、佐久間。南が嫌われる理由は、お前のその思考と言動だと思う」


「コバ先。意味不明なんだけど」


「じゃあ聞くけど、佐久間は南が学級委員の穂村をブロックしたって聞いたらどう思う?」


「別に、普通に嫌になったのかなって思うけど。喧嘩したとか」


「だったら、なんで南を嫌いだからブロックしたと思わないんだ?」


「それは……だって、南はいい奴じゃんか。美人だし」


「お前にとって南はいい奴かもしれないけど、クラスの女子たちにとって南は関わりたくない奴なんだよ。そう思われた理由は、お前ら男子たちのせいだ」


俺の言葉を聞いた佐久間の表情が凍り付く。俺は、幼い子どもに言い聞かせるようにゆったりと話し出す。


「俺は佐久間に相談されてから、女子たちに話を聞いた。彼女たちは南と繋がりたい男子生徒に嫌な思いをさせられてたよ。南に近づく男子生徒は佐久間や荒巻が追い払ってやっているみたいだけど、南以外の女子たちを庇ったことがあるか?」


「……無い。だって、仲良くなければ庇うとか無理じゃん」


「だったら、南以外の女子たちは南のせいで嫌な思いをさせられて、我慢するしかないのか?」


「だけど、それは南が悪いわけじゃない!!」


「南が悪いわけじゃない。俺もそう思ったし、南のせいで嫌な思いをした女子生徒にそう言った。だけど、その時に言われたよ。『先生も南さんを庇うんですね』って」


俺はそう言った後、司書室で学校司書の本村さんから聞いた例え話の話をした。

佐久間も、俺と同じように、チョコレートを友達に渡して欲しいと頼んで来た女子生徒ではなく、チョコレートを受け取る男友達に対して嫌な気持ちになると答えた。


「でも、だけど、嫌な気持ちになるにはその時だけだ。友達なら付き合いを続けるよ。当然だろ?」


「友達ならそうかもしれない。でも、友達じゃなかったら?」


「……友達じゃ、ないのか。南を友達だと思ってないのか。そうか。コバ先、言ったもんな。南が嫌われてるって……」


佐久間はそう言って、自分の前髪をくしゃりと握りしめた。


「南は自分が嫌われてるってわかってないと思う。コバ先、言った?」


「言えるか。……南をブロックしてる奴らも、そこまではっきりとしたことを言うつもりはないみたいだ。南本人にはな」


「……そっか」


「だから、女子たちを追い詰めるなよ。……お前が南に優しくしてやれ」


「うん。わかった。コバ先、相談に乗ってくれてサンキュ」


「おう」


「じゃあ、俺、部活行くわ」


「雨降ってるのに頑張るなぁ、サッカー部」


「グラウンド使えなくても室内練があるんだ」


「そうか。頑張れよ」


俺のやる気のないエールに苦笑を返し、佐久間は生徒相談室を出て行った。


【END】



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東浦河高校1年A組のトラブルの話。 庄野真由子 @mayukoshono

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